奄美大島のマングローブからやってきた、”ウルトラマンの種”の謎を解明する!

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ある日のこと。

よく晴れた休日に、僕は奄美市住用町のマングローブでのんびりとカヌーを漕いで過ごしていた。すると、雄大なマングローブ林の間から、水にプカプカと浮いた大きな種が近づいてくるのに気が付いた。

懸命に手を伸ばし拾い上げると、その漂流物は奇妙な姿をしていた。

つるっとした丸いフォルムの中心からちょこんと飛び出ているヒレのような突起。

これは…ウルトラマンの顔面にクリソツである。

 

これはなんなんだろう。木の実?気になったので、カヌーを降りて島の人たちに尋ねてみた。

すると、「この近くに住む物知りで風変わりなおじに聞いてみると良い」、と勧められた。

 

ヒーローの顔を拳に握りしめた僕は、少しパワフルな気分でそのおじの住むという、奄美市住用町山間(ヤンマ)集落まで車を走らせた。

 

ヤンマの怪しくて可愛いおじ

山間に着いて再び情報収集。

集落の人たちから、そのおじを川の方で見かけたと聞いたので人里離れた清流を上るように歩みを進めると。

居た。

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確かに少し風変わりだ。滝行をおこなう修行僧だろうか?

「こっちへ来ると良いよ」

と声を掛けられ少しドギマギしたが、ポケットの中のウルトラマンの顔をもう一度握りしめた僕は、大理石のような川石を飛び乗りながら向かった。

おじの佇む石の一つ手前の石までたどり着くと、「ここは昔ユタ神様がお清めになる滝だったんだ」と教えてくれた。

 

なんだフランクな人じゃないか、と安心すると、僕はウルトラマンの種を出しおじに見せた。

おじはうなずくと、「家に行こう」と僕を誘ってきた。

ちょっとした不安はよぎったものの、言われるがまま、滝から里に戻りおじの家まで着いていく。表札を見ると、與島(よじま)さんと言うらしい。

居間に座らせてもらうと、おじは僕にお茶とザルいっぱいに入ったウルトラマンの種をテーブルに出してくれた。

しかも、どの種にもファニーな目と口が黒マジックで描かれている。

するとおじは

「この種がなる木を『ウルトラマンの木』と名付けたのはワン(私)が初めてだりょっと」

と言い張った。

 

…本当なんだろうか?すこぶる怪しい…。

 

「時々イベントでこの種を持って行って、子供たちに目を描かせてネックレスにしてプレゼントしてるっちょ〜」

不思議…。でもなんだか可愛らしい…。

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舵を切るウルトラマンの種

おじは居間から庭先に生えているウルトラマンの木に目をやりながら丁寧な口調で語り出した。

「この木の正式名称の『サキシマスオウノキ』の由来は、沖縄の宮古島とか石垣島が並ぶ『先島諸島』から。だからうちに生えてる木も沖縄から来たわけよ」

この種の旅の話を聞く。

木から落ちた種は、乾燥して軽くなった後、大潮の日に波に運ばれて、大海に出て黒潮を泳いでいく。
たどり着いた島で根っこと芽を出して再び木になっての繰り返し。沖縄の果てから島伝いで奄美まで来たが、ここが距離の限界のようだ。休眠は1年間のためそれ以上北へは腐ってダメになってしまう。

「ココが舵になって、サーッと水を切るわけ」

手に包んだ種のヒレのような部分を指先で触りながら、物知りおじは教えてくれた。

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舵を切るウルトラマンの木の根

與島家から移動して、サキシマスオウノキの大木がある場所まで連れて行ってもらった。
その異様な風貌。

板状根と呼ばれる発達した根っこは、大人でもしゃがめばすっぽりとかくれんぼできてしまう大きさだった。

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おじが思い出を懐かしむように、子供の頃の話をしてくれた。

「昔はこの板を切り出していろんなもんに使ってたんよ、例えば外で家畜を粗切りする用のまな板とかや」

集落や家単位で牛やヤギや豚を飼っていた当時の生活が伺えるエピソードである。

さらに、この板が当時の伝馬船に必要不可欠な舵の役割をはたしていたそうだ。

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おじが住む山間集落で、当時盛んだった林業。切り出した材木を運ぶのをおじはよくしていたようだ。

「パルプを伝馬船に手運びするのをしょっちゅう手伝わされたね。そんで月夜の晩にじいさんがその船を漕ぎ出すわけよ、喜界島までね」

おじは少し嬉しそうな表情で付け加えた。

「だからこいつは種でいても木でいても舵をとる運命なんじゃや」

大海原を泳ぎ出す、ウルトラマンのようにたくましいこの種の中の構造を知りたくなったので、最後にこれを割ってほしいとおじにお願いした。
すると、

「割るなんてかわいそうじゃやー」

と苦笑いをしながらあっさり断られてしまった。

 

おじのウルトラマンの種に対する愛情が分かった瞬間、

最初のあの怪しい修行僧のようなイメージを思い出してそのギャップに笑えた。

カヌーをやる時は、舵を切ってやってくる、たくましいサキシマスオウノキの種をぜひ気にしてほしい。

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この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER

フリーライター/ゆりむん(漂流物)収集家。造園の大学を卒業後、ソーラーの営業マンとして関東を奔走していたが、島の「結い」という呪いに導かれて移住。奄美のラジオ局で島の酸いも甘いも辛いも知る。現在は黒糖焼酎の酒造会社に勤めながら、観光ガイド、島の植木調査、島グチ研究、ロケーションコーディネート、仮面制作などで自らを表現しながら島を考え続ける、奄美で最もこだわりのない暗中模索人。

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