奄美の山とイノシシを知り尽くす伝説の猟師:元直良

島人

2016/07/12

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中村 修

野生のリュウキュウイノシシ(奄美)

リュウキュウイノシシは、奄美諸島や沖縄本島、先島諸島に分布するイノシシの固有亜種。奄美大島に生息する哺乳類の中で最も大きく、島民の貴重なタンパク源として古くから狩猟の対象とされてきた。飽食の現代にあっても高級食材として取り扱われ、地域行事やお祝いの席で振る舞われる。

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「ワンや 読み書きや しっきらんば シシぬ あっき道は 知ちゅっと」(私は文字の読み書きはできないけどイノシシの獣道は全て知っているよ)。そう豪語するのは大和村大棚在住の元直良(はじめなおりょう)氏、70歳だ(以下、普段通り「直良兄」と記述する)。

直良兄は島の猟師なら知らない人はいないイノシシ猟の第一人者。頑固者としても有名で、気に入った人にはどこまでも面倒を見るが、一度へそを曲げると口もきいてくれない。人付き合いは不器用だが純粋で人情味溢れる男だ。

罠にかかったイノシシ(奄美)

直良兄は、腕利き猟師だった父親に習い、18歳からイノシシ猟を営んできた。猟の形態はイノシシの通り道に輪状の罠を仕掛ける「跳ね罠猟」。イノシシが穴の中の板を踏むとバネ木が上がり、ワイヤーで足をくくる仕掛けだ。

直良兄は長年の経験から罠にかかる獲物をも言い当てる。先日、取材で同行した際も「この罠には3日以内にメスジシの右前脚がかかるよ」と“予言”し、まさにその通りの(大物の!)イノシシを仕留めたのには驚かされた。

生きたイノシシをかつぐ猟師(奄美)

直良兄の販売するイノシシ肉は「直良ジシ」と呼ばれ、他の狩猟者の肉と区別される。

一般的にイノシシ肉は罠猟より銃で殺傷したイノシシの方が新鮮でおいしいと言われている(以前は私もそう思っていた)。しかし、「直良ジシ」を食べてその思い込みは覆された。直良兄は死んだイノシシは絶対に持ち帰ることはせず、罠に掛かったイノシシを解体する直前まで生かしておく(生きたまま担いでくる!)。とどめを刺してから解体までの素早い処理。さらには丁寧な皮目の仕上げ、骨を抜く際の芸術的な包丁さばきが新鮮で柔らかい肉質を保つ秘訣だろう。

圧倒的な狩猟技術もさることながら、迅速で丁寧なこだわりの加工処理術こそ、直良兄が島の人々から「伝説のイノシシ猟師」と呼ばれる所以だ。

伝説のイノシシ猟師、元直良(はじめなおりょう)氏"
ともすれば豚や鶏、島の魚に目が行きがちな奄美大島の郷土料理だが、ぜひ伝統のイノシシ料理も堪能してほしい。炭焼きや煮込み、猪鍋、味噌漬けなど料理法は多彩だ。もちろん使用する肉は「直良ジシ」とご用命願いたい。

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この記事を書いたフォトライター

中村 修

中村 修

島おこしプランナー/NPO法人TAMASU代表。故郷の奄美大島、国直集落を愛するあまり会社を辞めNPO法人を設立。奄美大島の自然や文化を活用した島おこし活動に取り組む。現在は地域住民と共に「国直集落まるごと体験ツアー」を開催し集落民一体となったシマ(集落)づくりを目指す。

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