毒抜きをして食べる奄美の郷土食【ソテツのデンプンで作る「シンガイ」】

奄美大島を巡っていると、そこかしこに目に付くこの植物。

実はかつて奄美大島の飢餓を救った、大切な食材でもあるのです。内地や外国ではただの観賞用としての植物かもしれませんが、島人にとっては、もう少し違う形で大切にしている、植物なのです。

奄美でたくさん自生している蘇鉄

どこを食べるの?

この植物の名前は「蘇鉄(ソテツ)」。

ソテツ科の常緑低木で、九州南部や西南諸島などで自生していますが、観葉植物としても知られています。群生林としては龍郷町安木場が有名です。

海岸端で夕陽に染まるソテツは、より南国感を醸し出してくれるます。

ソテツと海の見える風景

ゴツゴツとした茶色い幹に、色鮮やかな緑色の葉。大きな葉は、先端に棘のついた細長いものが連なってできています。

奄美でたくさん自生している蘇鉄

このソテツですが、奄美大島では古くから食用としても利用されていました。

食べるのは、もちろん葉っぱではなく、実(ナリ)や幹の芯の部分。

ソテツの実(ナリ)から作る味噌「ナリミソ」や、幹から採るデンプンで作る、「シンガイ」(芯の粥)などが有名です。

ソテツで作られたお粥「シンガイ」

いまでは奄美大島内でも作れる人が少ない、希少価値のある食べ物になってしまいました。

 

要注意!毒抜きを怠るなかれ

有毒の植物としても知られているソテツを食用にするには、昔ながらの手間と時間をかけた丁寧な作業工程が必要。 「毒抜き」は避けては通れません。

「シンガイ」と言えば、奄美大島宇検村生勝の集落で作られるものが有名です。 親から代々受け継いだという作り方が現在も大事に継承され、ひとつひとつの工程作業はとても丁寧なものです。

シンガイの元となる「シン」

丸めて乾燥させたおだんご状の「シン」は、白く真っ白。より白いものが上等だとされる為、生勝集落の方々が作る「シン」は、通な人たちの評判となっています。

 

【保存食・シンの作り方】

まずは幹選び。幹回りの大きなものが良いようです。
葉を落とし、幹の茶色い皮をそぎ落としたら、白い芯の部分をカットします。

ソテツを食べるための下ごしらえ、ソテツの芯

カットしたものは、数日間天日に干しますが表裏を返す作業も欠かせないそうです。

水に何度かさらした後、蒸すかのように布でくるみ日の当たらない暗い場所で寝かします。様子を見ながら、黄色麹が生えたら綺麗に水洗いし、杵臼で細かく砕きます。 その後は、数日間水につけ、水を替えの繰り返し。

幹が柔らかくなったところで、また細かくすりつぶし、水につけます。

底に沈んだ細かいデンプンを引き上げておだんごを作ります。 おだんごは、天日干しをして完全に乾燥させ、これでようやく保存食の完成です。

 

ソテツをめぐるアレコレ

この「シン」は、お粥のなかに混ぜられ「シンガイ」として食されます。 温かいシンガイのほかに、夏場の食欲にない時期に冷やして食べる方も多いそうです。

地元でもなかなか口にすることのない「シンガイ」ですが、地元の方々とのご縁ができると「シンガイ」を味わうことができるかも。

奄美では食用としても活用されていた蘇鉄

もちろん、食用以外にも身近な食物としてさまざまに利用されていたソテツ。

葉は、クリスマスツリーの飾り用として海外へ輸出していたという記録もあるとか。

また、ソテツの赤い実は、地元の運動会の玉入れ競技にも使用されることも。

ソテツと島の暮らしとの歴史や文化は密接に係わっているのです。


鹿児島県大島郡宇検村生勝
写真提供 宇検村教育委員会

 

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この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER

セラピスト/エッセイスト。奄美大島出身。奄美の地元紙、南海日々新聞にて2013年から紬随筆を執筆中。島内外の人と人を繋げるイベント等を企画・運営している。奄美黒糖焼酎語り部として、エフエムうけんにて黒糖焼酎を宣伝するための番組を企画、パーソナリティーを務める(2015.3まで)

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