伝説になった峠の茶屋 「三太郎」の物語をたどる(奄美市住用)

昔、それほど遠くない昔。

今から100年程前に奄美大島の中東部、住用村に実在した人物、畠中三太郎さん。

当時一本しかなかった集落間をつなぐ峠道の頂きに、三太郎さんは妻のシゲさんと夫婦で茶屋を開きました。

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その三太郎茶屋は、ただの峠の休憩所ではありませんでした。

厳しい自然を切り開いた美しい農園と、その先に拡がる森と海の絶景によって、訪れる人々を夢のような世界へ誘い込むことができたのです。

いまやその名を冠した村祭りが開催されている程の人物、畠中三太郎さん。

三太郎さんの功名を追って、二書を併読していきました。

 

■「南海小記」柳田国男氏著

■「奄美の森に生きた人」前橋松蔵氏著

 

民俗学者がつづる「三太郎」の姿

日本の民俗学の祖と言われる柳田氏の著作「南海小記」は、大正時代の言葉で書かれています。

そのため、少しとっつきにくい感じはありますが、その内容に入ってしまうと抜けられません。

なぜなら、私たち自身である日本人、その民族的ルーツに迫っていくからです。

古い文語に慣れたころには、九州南東部から奄美大島、沖縄、八重山へ旅する紀行文のかたちが見えてきます。

そこで興った信仰や文明の起源と継承について、柳田氏の持つ深い知識と洞察を加えて、エッセイ風に語りかけてくれます。

この「南海小記」の一節で、生前の三太郎さんと柳田氏自身との出会いのシーンを再現させます。

けだるいブルーカラーで描かれた三太郎さん像は、何ともいえず印象的です。

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この印象に心底感銘したのが、奄美大島にゆかりある前橋松蔵氏です。

新聞記者の経歴を持つ前橋氏は、持ち前の腕力を振わせ、三太郎さんの半生を「奄美の森に生きた人」に記しました。

 

なぜ奄美大島へやってきたのか

三太郎さんは、肥沃な耕地に恵まれた農業先進地、鹿児島県は薩摩半島川辺町の出身です。

三太郎さんの兄は農業を営む一族の家頭で、人々をまとめる能力に長けていました。

そのような生い立ちから、三太郎さんは一目おかれる農業指導者へと成長して、住用村役場を通して奄美大島へ迎えられたのでした。

茶畑の普及に尽力したのち、三太郎さん40代の時に夫婦で峠に農園と茶屋を作り始めたのです。

その峠道は、上り下りで8kmほどの険しい山道。住用村の東西を結ぶ唯一の道であると同時に、奄美大島の南北を結ぶ幹線路でもありました。

人の往来が茶屋を活気づけ、琉球壺屋のヤチムンや薩摩のクロモンといった陶器の販売も行いました。

 

見事なお茶とミカンの農園が、目の前に広がっています。

そこで採れたお茶を、島の南北の焼き物でいただく。

そのうえ、シイタケなどの季節の作物を調理して出してくれるのです。

つらい峠道を越えてきた人々にとって、それは結構なもてなしだったことでしょう。

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やがて時代は足早に状況を変えていきます。

茶屋の盛況の裏では、だいぶ離れたところを通る車道の整備が進んでいたのです。

開通後ほどなく、茶屋は収束していきます。

疲弊する生活の中でも、二人は地所に強くこだわり続けました。

柳田氏が茶屋を訪れたのは、この頃だったのです。

 

三太郎さんが語り継がれている本当の理由

森の中で老いていく二人は、強い絆で結ばれた人々から支援を施され、生き抜いていました。

しかしついに、三太郎さんは倒れます。追うように妻のシゲさんも亡くなりました。

 今その場所には石碑が建てられ、三太郎さんの伝説を知る者のみに、かすかな面影を残しています。

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三太郎さんが語り継がれている理由は、単に桃源郷のような茶屋を作ったことではないのだと思います。

その過程の中で、三太郎さんが周囲の人々へ見せた人格なのではないでしょうか。

努力によって築かれた人格が、接する人の心を大きく震わせたのでしょう。

その振動が時を超えて、私たちに伝説となって響いているのだと思います。

この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER

写真歴22年。沖縄に14年間在住の後、奄美大島へ移住して3年。ライフワークとして、海岸を題材とした写真作品を制作している。現在、分野を拡げてフォトライターとしても活動を展開中。 2011年、カフェ・アソシアにて二回目の個展“orbit”開催。seakayak~海を旅する本~vol.27~39に、記事&写真の連載。コミュニティFMニライの番組”Nature Human”にて、企画&パーソナリティを勤める。

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