小さな蔵の大きな野望、あまみ長雲「山田酒造」

島モノ

2017/05/11

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牧統 大

龍郷町大勝、山田酒造

龍郷町大勝、長雲山系の麓に代表銘柄「あまみ長雲」を造る山田酒造があります。

山田酒造は昭和32年、農協の酒造場で黒糖焼酎造りに携わっていた初代が創業し、現在2代目の山田 隆さんと3代目の山田 隆博さんの親子2代で黒糖焼酎を造っています。

山田酒造:三代目山田隆博さん

「黒糖焼酎を通して奄美を知るきっかけになれば」と蔵を案内してくれたのは3代目の隆博さん。隆博さんは東京農業大学の醸造学科で醸造や発酵について学び、現在は杜氏として蔵を任されています。

「黒糖焼酎を造る際には米麹と黒糖を使うのですが、本来は米麹を使わなくても黒糖の糖分だけでも発酵できるんです。」と隆博さんは言います。

そもそも、黒糖焼酎が歴史の表舞台に登場するのは戦後間もなくのことで、敗戦によって沖縄とともに米国の統治下にあった奄美群島は、沖縄より先に日本へ返還されることとなりました。その時、島の経済を支える柱として黒糖を使った焼酎造りが正式に認められたという歴史があります。

ただし、酒税法上の理由から黒糖焼酎を造る際には米麹を使うことが原則となっており、黒糖焼酎を造るには1次仕込みと2次仕込みが必要となるのだそう。

黒糖焼酎に使う米麹

実際に米麹を見させてもらいました。

代表銘柄「あまみ長雲」で使用しているお米はタイ米。パラパラとお米同士がくっつかないタイ米は、醸造した際にお米の香りを主張しすぎず、黒糖の香りを楽しむ黒糖焼酎造りには適しているのだそう。

蒸した米に麹カビの種を蒔き、三角棚(さんかくだな)と呼ばれる温室でこれらを繁殖させたものが「米麹」です。麹はお米のデンプンを分解し、糖分を作り出す役割があります。

そして酒造りの大役を果たすのが微生物「酵母」。酵母は糖分をエネルギーにしてアルコールを作る作用があり、酵母を繰り返し仕込んでいくうちに蔵に住みつく酵母(蔵つき酵母)がどんどん増え、蔵それぞれの味の違いに大きく関係してくるのだとか。

黒糖焼酎の一時仕込み

一時仕込みは甕で仕込みます。

写真手前が発酵1日目で奥が発酵2日目。発酵が進むにつれブクブクと泡立ち炭酸ガスとアルコールが増してきます。

黒糖焼酎の製造作業

発酵が進むにつれ酵母が熱を持ち自滅してしまうため定期的に甕をかき混ぜ空気に触れさせる必要があります。ブクブク泡立つ様子は生き物そのもの。

黒糖焼酎発行の様子

黒糖は豊かな香りを残すために手早く溶かし、タンクで二次仕込みをします。使用する黒糖は銘柄毎に異なり、「あまみ長雲」は沖縄県産、「長雲一番橋」は奄美市笠利町産、「山田川(やまだごう)」は龍郷町大勝産と銘柄毎で使い分け、味や香りに変化をもたらせます。

こうして、発酵したもろみは蒸留され、透明に澄んだ液体となっていよいよ姿をあらわします。原料の風味が引き出された原酒はここから2年以上貯蔵タンクで熟成され、まろやかで香り深い黒糖焼酎が誕生するのです。

黒糖焼酎製造の様子

奄美群島の中で最も小さい蔵(共同瓶詰めを除く)と言われる山田酒造は大きな野望を持っています。

それは、「原料から100%自社産の黒糖焼酎を造る」こと。

年間出荷750本ほどの限定酒「山田川(やまだごう)」では、既に自社の畑のさとうきびから作った黒糖を使用。お米は、龍郷町秋名産のお米を仕入れ焼酎を造っていましたが、2016年の春からついに自分たちの手で米作りを始めました。

そしてついにこの春、そのお米を使った焼酎造りが始まった。

この焼酎が世に出回るのは早くても2019年という。

「自分たちの作った焼酎で奄美の自然の豊かさを知ってもらい、奄美を好きになって欲しい。」

小さな蔵の熱い思いはまだまだ始まったばかりです。

あまみ長雲(山田酒造)

代表銘柄「あまみ長雲」

 

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この記事を書いたフォトライター

牧統 大

牧統 大

合同会社フラスコ代表/デザイナー。奄美市出身。2012年より奄美の特産品を全国へお届けするオンラインショップ「がじゅMarine」を運営。現在は島内外の人と人を繋げるコミュニティショップ「Frasco」を開設し、イベントの企画やフリーペーパの作成など幅広い活動を行っている。

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