自然・文化・色に感謝し、奄美と向き合う染色家 金井志人

島人

2016/03/08

ペン

古林洋平

染色する金井志人

国道58号線を龍郷役場から、車で5~6分ほど進むと、戸口集落へ向かう県道が現れる。その県道沿いに進み戸口集落内を走っていると、左手に金井工芸への入り口の看板が見えてくる。広い敷地を入っていくと心地よい空気が流れていて、そこに金井志人氏の古代天然染色泥染草木染工房「金井工芸」がある。

乾燥中の染め物

敷地内に入ると、風の音、水の音、鳥の鳴き声が耳に入ってくる。余計な音は一つもなく、静かに時が流れていた。

彼は、静かに淡々と、そこに溶けこむかの様に作業に取り組んでいた。

染色する男性

奄美で生まれ育ち、進学を機に上京し、しばらく東京都内での仕事を経験したのち、25歳で島に戻り、家業の染色工房に入った。

「生まれ育った島を離れて、外から奄美をみることで、より奄美のことを知ることが出来た」

1300年続く奄美に伝わる染めの技法によって、独特でさまざまな色を作り、生み出すというところが魅力。もともと「色」に興味があったのも、家業を継ぐきっかけの一つだったという。

説明する金井志人

彼は、一つ一つ丁寧に、染色の工程を説明してくれた。

工房内には天井から吊るされた巨大なテーチ木(しゃりんばい)の塊があり、それをチップ状に砕き、2日間かけて煮出す。

テーチ木に含まれるタンニン酸と泥の中に含まれる鉄分が、自然の科学反応を引き起こし、テーチ木染めの赤茶色が黒へと変化していく。それを何度も繰り返すことによって、色に深みが増してくるという。それが、大島紬の「深い黒」へと変化するという。

泥を洗い落とす金井志人

糸に付いた泥を洗い落とすために、裏山にある渓流へと案内してくれた。

東洋のガラパゴスと呼ばれる奄美大島は、亜熱帯照葉樹林が広がり、年中通して山々は深い緑色に覆われている。それは、大島紬の深みのある黒にも似ている。

山の中に足を踏み入れると、差し込む光は美しく、渓流はキラキラと輝いていた。そこには、自然の音しかなく、シンとしていて、美しくもあり、少し怖くも感じた。まるで奄美の妖怪「ケンムン」がひっそりと潜んでいるかのようだった。

昔から、奄美の山には神が宿っており、山の中に入る時は、必ず山への感謝をし、出るときも山へ一礼するという。

渓流に入る金井志人

奄美はもともと自然崇拝の島であり、「人は自然に生かされ、共存し合い、自然の一部の中にある」という文化があり、先人が紡いできた知恵の上に自分たちはいる。

「古き良き伝統文化、先人の知恵を受け継ぎながらも、その時代時代に合わせてカタチが変化してもよいと思う。時代が求めるところに向き合う精神が、大事である」と金井氏は言う。

金井氏の「染め」に対する真面目な考え方や、取り組む姿勢に熱いものを感じた。

のんびり奄美

ペンアイコン
この記事を書いたフォトライター

古林洋平

古林洋平

フォトグラファー/写真家。古林洋平写真事務所。奄美2世。広告・カタログ・ファッション等の撮影を手掛ける傍ら、ルーツである奄美を独自の視点でとらえ、国内外において写真展等で発表する。また、全国の高校生たちと向き合い、撮影をする「青い春」など、精力的に活動。

Related Articles 関連記事