黒糖焼酎造りと音楽に感じるシンクロニシティ。杜氏見習い兼ミュージシャン:西平せれな

島人

2016/03/08

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三谷晶子

西平酒造杜氏の西平せれな

杜氏(とうじ)と言うと、男の世界だという印象を持つ人が多いのではないだろうか。しかし、せれなさんは自分が杜氏になることを幼い頃から考えていたという。

「そもそも、ひいおばあちゃんが杜氏だったんです。沖縄や奄美では、酒造りをするのは女性というのが伝統で。温度管理や菌、酒の状態を見るのは子育てのように細やかな思いやりが必要。力仕事は男性がしても、お酒の管理をするのは女性のほうが向いているからかもしれません」

弟が二人いるが、西平酒造の跡を継ぐのは自分だ、ということをせれなさんは感じていたそうだ。

18歳で上京。東京では音大に通いながら、各地で音楽活動を行った。

音楽活動も行なっている西平せれな

「東京に憧れていました。音楽をやるなら東京だと思っていた。上京してから、一度も奄美に帰りたいと思ったことはありませんでした」

そもそも、東京から奄美に帰る人々に反対していたタイプだった、とせれなさんは言う。

「夢を追って東京に出てきたのに夢が破れて島に帰るなんて、と思っていました。夢を諦めて島に戻るなんてと。島に戻っても何もない、つまらない。そう思っていたんです」

ところが、2015年。家庭の事情で、せれなさんは島に戻ることになる。

「今は元気になったんですが、当時は父の体調が思わしくなくて。東京で音楽をやっている弟二人と相談して、私が島に戻ることになりました」

その時、不思議と素直に「帰ろう」と思えたとせれなさんは言う。

「あんなに帰りたくないと思っていたのになんでだろう? と我ながら不思議でした。けれど、奄美に戻って家を継ぐと決めた時、杜氏だったひいおばあちゃんが守ってくれるような気がしたんです」

帰郷してすぐは、「杜氏になりたい」となかなか言い出せなかったそうだ。

「大変だし、本当に自分にできるのかなと躊躇っていました。でも、やっぱり私がやるしかないと思って父や先輩の杜氏の皆さんにお願いして。最初はタンクの掃除などの雑用から始めました」

黒糖焼酎を作っている西平せれな

杜氏としての知識が少しずつ深まるにつれ、酒造りと音楽作りに共通点をせれなさんは見出していったという。

黒糖焼酎の原料は主に米と黒糖だ。米を蒸し、一日寝かしたあとに麹を混ぜ、カメに入れて発酵させる。季節や温度により、発酵の具合は異なる。ある程度発酵したところで黒糖を溶かしたものと混ぜ、タンクに入れる。さらに寝かせ、仕込みから14日ほどで蒸留して、瓶詰め後、出荷される。

「タンクを混ぜるとき、音楽をやっていたあの瞬間に似てると思う時があるんです。タンクの中でぶくぶくと発酵していって日々味が変わる黒糖焼酎のように、音楽のセッションも毎瞬で、昨日とは全く違うものが生まれていく」

マニュアル通りにやればいいというものでもないところも、酒造りと音楽作りは似ているとせれなさんは言う。

「音楽にコード進行があるように、黒糖焼酎造りにも基本のやり方があるのですが、その通りにやるだけじゃだめなんです。音楽もお酒もきちんと今の状態を見つめて、手間暇をかけ、理解をしないと今やるべきことができない。愛情と経験と理解が必要なのは音楽もお酒造りも一緒で、そうやって日々積み上げていくからこそ、かっこいいもの、すごいものが生まれるんですよ」

西平酒造の杜氏、西平せれな

温度計を見なくても酒の状態がわかる先輩の杜氏の姿を見て、「なんてかっこいいんだろう」とせれなさんは思ったという。

「島に戻る=夢を諦める、と思っていた昔の自分に『それって勘違いだよ』と言いたいぐらい。今はLCCも就航して、インターネットもあって、島にいながらもやりたいことをできる環境が整っている。音楽も酒造りも人生をかける価値のある奥の深いもので、私は今、その二つに全力で取り組める場所にいるんです」

奄美大島には、音楽がいつも流れている。

親戚の集まりやお祝いでことあるごとに奏でられるシマ唄、島外から著名ミュージシャンが公演をしにくるライブハウス、地元の人々がDJをするクラブ、シマ唄を聞ける居酒屋、夏祭りやフェスティバルで公演をする奄美大島に住むバンドやアーティスト。

仕事をしながらも、ギターや三線、ちぢん太鼓やドラムスティックを持ち、音楽を続けていくのが普通の島だ。

ぶくぶくと生き物のように音楽が息づき、その場所にはいつも、黒糖焼酎がある。

「今、私は、杜氏のことと、音楽のことしか考えていないんです」

それは最高に幸せですねと言うと、せれなさんは「本当に、そう思います」と頷いた。

せれなさんは今、杜氏見習いとして働きながらも島内外で音楽活動を続けている。西平酒造の焼酎「珊瑚」と「加那」は、島内ではどこにでも置いてある代表的な焼酎だ。

せれなさんの音楽が奏でられる場所にせれなさんが作った黒糖焼酎がある。

「意味ある偶然の一致」「共時性(きょうじせい)」「同時性」「同時発生」という言葉を「シンクロニシティ」と呼ぶ。

せれなさんが見出した酒造りと音楽のシンクロニシティ。

奄美大島の酒造りは島のあちこちに流れる音楽のように、これからも脈々と続いていく。

 

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この記事を書いたフォトライター

三谷晶子

三谷晶子

作家、ILAND identityプロデューサー。著作に『ろくでなし6TEEN』(小学館)、『腹黒い11人の女』(yours-store)。短編小説『こうげ帖』、『海の上に浮かぶ森のような島は』。2013年、奄美諸島加計呂麻島に移住。小説・コラムの執筆活動をしつつ、2015年加計呂麻島をテーマとしたアパレルブランド、ILAND identityを開始。

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