「酒質」にこだわる若旦那がつくる伝統的製法の黒糖焼酎【弥生焼酎醸造所】

島モノ

2018/03/28

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秋葉 深起子

日本で唯一、黒糖焼酎を製造することができる島々。

黒糖焼酎は、奄美群島でしか作ることを認められていないことをご存知でしょうか。

意外と、黒糖焼酎の存在すら知らない方も多いと思います。

「奄美大島、加計呂麻島、与路島、請島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島」の8つの島を奄美群島と言いますが、その中の「奄美大島・喜界島・徳之島・沖永良部島・与論島」のたった5つの島で、現在日本にある黒糖焼酎のすべては製造されているのです。

 

そして「黒糖焼酎」といっても、蔵元によって、また同じ蔵元でも素材や製法によって、その味はまったく異なります。
もっとも分かりやすい違いが、
昔から行われてきた伝統的な「常圧蒸留(じょうあつじょうりゅう)」と、
40年ほど前に新しく開発された「減圧蒸留(げんあつじょうりゅう)」という蒸留方法の違いです。

奄美にある弥生焼酎醸造所の内部

創業当時から「常圧蒸留」で作る黒糖焼酎『弥生』や『まんこい』で知られる弥生焼酎醸造所へ伺ってきました。

 

酒質にこだわる弥生焼酎醸造所

奄美にある弥生焼酎醸造所の内部

伝統的な製造方法を守りつつ、時代の流れを味方にした発信を続ける弥生焼酎醸造所は、大正11年の「3月」、弥生の月に生まれました。

実際に飲み比べれば一口瞭然(一目瞭然)なのですが、ここで説明をするとすれば、常圧蒸留は濃厚でエッジの効いた焼酎。

弥生焼酎醸造所の若旦那川崎さんに取材

この「常圧蒸留」は、1気圧(人が生きている気圧と同じくらい)で蒸留する方法。

発酵したモロミは温度約70度でアルコールが蒸発しはじめ、一度気体になったアルコールの成分が冷やされ、液体になります。
モロミの温度は100度近くまで上がるので、黒砂糖の香りやお米の中の油など原料由来の成分も一緒に蒸発してお酒に入り、香りがあってコクのある焼酎が出来上がります。

 

奄美にある弥生焼酎醸造所焼酎の過程(ちなみに、黒糖を大量に使用しますが蒸留時に蒸発するため、糖質は一切ありません。)

スッキリとした味わいの「減圧蒸留」の黒糖焼酎が「女性好み、万人受け」という印象に対して、
「常圧蒸留」は、まさに「黒糖焼酎好き!お酒が好き!」という方から支持される「通好み」という印象。

奄美の弥生焼酎醸造所の川崎さん

昔からの黒糖焼酎のあの「酒質」。

昔からのファンの期待に応えたいという弥生さんの心意気にも感じました。

 

イメージよりも酒質!

黒糖焼酎の製造シーズン(2~4月、10月~12月)が始まると、1分刻みで管理しなくてはいけないため、製造中はここから離れることはできません。お子様の入学式や卒業式もこの時期になるため見に行くことが難しいそう。

弥生焼酎醸造所の川崎さんに取材
製造工程を説明してくれながらも、時計を確認するのは弥生焼酎醸造所4代目の川崎洋之さん。

「ここでお米を発酵させています。うちではタイ米を使っています。
数年前から原料の産地表記をしなくてはいけなくなったため、その産地印象から国産米に変えるところもありますが、日本の加工用米は吸水率がバラバラ。蒸し上がりが均一になりません。
タイ米の方がいい状態で麹の出来が良く、味が全然違います。飲み比べると皆さん、タイ米で作る黒糖焼酎のほうが“酒質”がいいと言います。

僕たちは、酒質を大切にしたいと思っています。」

 

噂の!若旦那さん!

初対面の私たちに、ひょうひょうと話しだしてくれた「若旦那」こと川崎さん。

親戚のお兄さんに黒糖焼酎のことを教えらもらっているような空気感に、 私たちはあっという間に緊張がほどけました。

実は今回の取材は「弥生の4代目が面白い人らしい」という噂を聞きつけて、取材をさせていただきました。

弥生焼酎醸造所の川崎さんに取材

「若旦那」と言われる、弥生焼酎醸造所4代目の川崎洋之さんは、
奄美大島の高校を卒業後、東京へ上京。大学を卒業後は、医療器具の研究を行っていたそう。

その後、製薬会社でマーケティング職や営業職を経て、35歳で奄美大島へUターン。
現在は、杜氏として、そして4代目として黒糖焼酎の製造・販売・PRを行っています。

 

私が「東京での経験が今のお仕事に活かされていることはありますか?」と伺うと、

「直接、活かされていることはないかもしれませんが、 医療関係の研究などをやっていたころ、トライアンドエラーの繰り返しを経験し、 それによって多くのことを学びました。
それは黒糖焼酎作りにしても同じで、新しいことや面白いことにトライして、失敗したらどうしてうまくいかなかったのか、謙虚に反省し、また意欲を持って挑戦するようになったと思います。」と若旦那さん。

今も既存の商品とは違う、新しい焼酎づくりにもチャレンジしているそうです。

「僕が初めて入社した会社に“議論闊達、意見自由”という社是がありました。
新入社員であろうが、社長であろうが、立場を超えて意見を自由に言える環境で育ったため、今でも、良いと思ったことは誰にでも何でも言ってしまうところがあります。
僕自身、“こうしたほうがもっといいよ”と遠慮なく言ってもらいたいと思っています。
それで僕自身がいい方向に変われるなら本当にありがたいことだからです。

それで、うちのお酒がもっと良くなればいいと思いますし、ましてや業界全体が良くなるために何をしたらいいか、多方面からのありがたいアドバイスを元に、真剣に考えて動くことは絶対良いことだと思っています。」

弥生焼酎醸造所の川崎さんに取材

「あ、でもいろいろな考え方の人がいるから、 何かを言われることすらイヤだと思う人は、きっとストレートに発言する僕のことキライになるかもしれませんね!」と笑いながら話してくれました。

一見、穏やかな印象からは想像できないような芯の強いエネルギッシュな熱い言葉。若旦那さんの独創性と誠実さから生じる几帳面なおもしろさを感じました。

「弥生酒造の若旦那がおもしろい」・・・この噂、理解ができました。(笑)

 

焼酎づくりと、毎日のブログ発信

現場で焼酎造りに精を出す「杜氏」。職人気質なイメージですが、若旦那さんは製造のほかに自ら営業・広報にも精を出します。2009年から綴っているブログは、最近ではほぼ毎日更新しているとのこと。

このブログが、まさに若旦那ワールド!

Blog>奄美黒糖焼酎】弥生焼酎杜氏ブログ

 

「ブログやSNSを書くことで、つながっていくものやネットワークの広がりなどがありますか?」と尋ねると、

「はい。全国に物産展で行くと、ブログやSNSで繋がった人たちが物産展に来てくださったり、そのご縁から、奄美大島まで来てくれる方もいます。
うちの焼酎がたくさん売れるほどではありませんが、 その繋がりや口コミから少しずつでも、弥生の焼酎や、奄美のことを知ってくれたり興味を持ってくれたりしてもらえるといいなと思い、日々お酒のこと、美味しい食事のことなどを綴り、情報発信の努力をしています。」

若旦那さんのブログを読んでみると、「ブログ人格」と「リアル人格」がほぼ一致している印象でした。
お会いしたことがない方でも、ブログ表現を読むと若旦那さんの想いや雰囲気が伝わるのだろうなぁと思いました。
ぜひご一読を!

弥生焼酎醸造所の川崎さんと取材した女性2人

そして、黒糖焼酎が好きな方、奄美大島が好きな方は、ぜひ弥生焼酎醸造所に見学へ!
4代目「若旦那」から直接お話を伺うことができます。(必ず事前にご連絡くださいね)

時間が合えば、「弥生」や「まんこい」と合う美味しい飲食店へもご一緒できるかもしれません。

 

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この記事を書いたフォトライター

秋葉 深起子

秋葉 深起子

RDA(Relaxing Days Amami)ツアースタイリスト。東京でカラー&イメージコンサルタントとして、企業研修や講演、プロダクトデザインのカラー提案、フォトスタイリング等を行う株式会社アンドカラーを設立。2017年「五感を刺激する大人のための奄美旅」をモットーに、奄美と出会えてよかったと思えるような旅やイベントを企画運営事業を開始。

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