ネイチャーワンダーアイランド~vol.1|なぜ奄美大島には希少野生生物が多く残っている?

島コト

2018/12/05

ペン

奄美野生生物保護センター

奄美ネイチャーワンダートップ画像

 

こんにちは。奄美大島大和村にある、環境省奄美野生生物保護センター自然保護官(レンジャー)、早瀬穂奈実です。

今回から全8回、奄美野生生物保護センタースタッフの連載で奄美大島の自然や生き物について紹介します。

記事を通して、まだまだ知られていない奄美大島の自然の素晴らしさを少しでも多くの人に知っていただけたらうれしいです。


ネイチャーワンダーアイランド~vol1|なぜ奄美大島には希少野生生物が多く残っている?
ネイチャーワンダーアイランド~vol2|マングローブってどんなところ?
ネイチャーワンダーアイランド~vol3~外来種の実態、防除の最前線


早速ですが、みなさんは奄美の動植物がどれほど貴重か知っていますか?
アマミノクロウサギアマミトゲネズミアマミヤマシギなど「アマミ」が名前についている生き物を耳にしたことがあるかと思います。また、動物だけでなく植物にも「アマミエビネ」「アマミテンナンショウ」など「アマミ」がつく種類がたくさんがあります。

 

日本全体の面積の0.19%の面積しかない奄美大島。

しかし、この島に生息する脊椎動物の種数(魚類を除く)は、日本に生息する生き物の42.7%にもなり、そのうちの42種類はトカラ列島以南の南西諸島にしかいない固有種と言われています。

奄美の天然記念物「アマミノクロウサギ」

アマミノクロウサギ(国内希少種。国指定特別天然記念物。奄美大島と徳之島のみに生息。絶滅危惧ⅠB類)

奄美の天然記念物「アマミトゲネズミ」

アマミトゲネズミ(国内希少種。国指定天然記念物。奄美大島固有種。絶滅危惧IB類)

奄美の天然記念物「アマミイシカワガエル」

アマミイシカワガエル(国内希少種。鹿児島県指定天然記念物。奄美大島固有種。絶滅危惧IB類)

奄美の固有種「アマミエビネ」

アマミエビネ(鹿児島県指定希少野生動植物種。奄美大島固有種。絶滅危惧ⅠA類)

 

奄美大島は希少種の宝庫と言われますが、なぜこんなに奄美大島には希少種、固有種の動植物が多いのでしょうか。

今回はそんな奄美大島の自然の秘密をご紹介します。

 

1.亜熱帯にはまれな環境?

奄美大島は亜熱帯性気候に属しています。亜熱帯性気候は赤道周辺の熱帯と日本の本州が属する温帯の中間の気候にあたります。

そして奄美大島は年間降水量約2,800mmと非常に雨が多いことが特徴です。(東京の年間降水量は約1,500mm)

世界的に見ると、亜熱帯性気候に属する地域は砂漠や草原など乾燥した地域が多いのに対して、この奄美大島は海流(黒潮)と季節風の影響により温暖・湿潤な気候で、広い面積の森林(多雨林)が成立しています。

亜熱帯性気候でかつ雨が多い奄美大島は、世界的にみてもまれな環境ということができます。
そのような気候の中で、森、川、サンゴ礁といった様々な自然に恵まれ、たくさんの種類の生き物が生息できる環境の島となったのが奄美大島です。

奄美大島の森 奄美大島の山河 奄美大島のサンゴ礁

 

2.大陸とくっついたり離れたり

奄美群島は、約1000万年前は大陸とくっついていたと言われています。約200万年前に、いくつかの大きな島に分かれ、約2万~1.5万年前に現在の形になったと言われています。そのような歴史の中で、大陸から渡ってきた生き物たちが島に取り残され、各島で独自に進化してきました。

豊かな自然と独自の生態系に守られ、奄美大島にしかいない生き物が今も多く生き残っているのです。

奄美・琉球の成立の歴史

 

3.自然と上手につきあってきた暮らし

私たちは、自然から様々な恩恵を受けて暮らしています。
きれいな空気や水、土砂災害等の軽減、豊かな海と山の幸、などなど・・・。集落を中心として海と山をひとつの生活空間とした奄美大島のかつての生活は、海や山に神の存在を認め、自然と一体となったものでした。島唄、八月踊り、豊年祭など独特の伝統文化の中にも奄美大島の自然との関わりが垣間見えます。

また、今でも私たちにとって怖い存在のハブですが、ハブがいることで奄美大島の自然が守られてきたという説もあります。ハブが危険だから森に入ってはいけないという教えの中で、必要以上に森に人が入ることなく奄美大島の豊かな森が残されてきたとも言えるのでないでしょうか。

 

奄美大島の生物:ハブ

昔は小さい貝を捕ったら海に帰しなさいと教えられた、といった話を島の方から聞いたことがあります。先人の方々が自然との共存の中で持続可能な方法で自然を利用してきたように、私たちも自然の力を上手に借りながら奄美大島の豊かな自然を守っていかなければなりません。

 

4.さいごに

奄美大島の自然や生き物が貴重な理由、守られてきた理由についてご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。

最後に、奄美大島には絶滅危惧種がたくさんいますが、生息数が少ないことがその生き物の価値ではありません。長い歴史の中で独自に進化してきた経緯や奄美大島独自の生態系の価値を理解し、豊かな自然の中に多くの貴重な生き物たちが当たり前にいる奄美大島を目指していけたらと思っています。

奄美の海とウミガメ

次回は、奄美大島の特徴的な自然、マングローブの不思議についてご紹介します。

ペンアイコン
この記事を書いたフォトライター

奄美野生生物保護センター

奄美野生生物保護センター

奄美群島の自然や生き物に関する展示を行う環境省の施設。

野生生物の調査、外来種対策、自然観察会を通した普及啓発や世界自然遺産登録に向けた取組などを総合的に行う拠点にもなっている。

開館時間:午前9時30分~午後4時30分

休館日:毎週月曜日(祝日を除く)、年末年始(12月29日~1月3日)

住所:鹿児島県大島郡大和村思勝字腰ノ畑551番地

電話:0997-55-8620

管理協力: 鹿児島県自然保護課、奄美群島12市町村

Related Articles 関連記事