八月踊りを後世に! 大和村名音集落の挑戦

島唄

2020/03/19

ペン

小海ももこ

シマのアイデンティティ「八月踊り」

名音八月踊り保存会の練習風景

(名音八月踊り保存会の練習風景)

奄美の伝統的な踊りといえば「八月踊り」です。

八月踊りは、それぞれの集落で旧暦8月の祭事に踊られるもので、チヂンという太鼓に合わせて男女かけあいながら歌い、丸く輪になって踊ります。

私は移住してから初めてこの八月踊りに出会いました。毎年参加して少しずつ覚えてくると、なんとなくその魅力が分かるようになってきました。

八月踊りは男女掛け合いで歌うのですが、相手が歌っているときに指笛で盛り上げたり、合いの手を入れたり、みんなでその歌を盛り上げていきます。さらに「あらしゃげ」というどんどん歌のスピードを上げていく遊びの要素もあります。

娯楽が少なかった昔は、宵闇の薄明かりの中、浴衣姿でいつもと少し雰囲気の違う集落のみんなとお酒を飲み、歌い踊る時間は本当に楽しい時間だったでしょう。

今里集落のシバサシ

(今里集落のシバサシに行われる八月踊り)

八月踊りは、集落ごとに少しずつメロディーや歌詞、踊りが違います。その違いはアイデンティティにもなり、郷土愛のひとつにもなっているように感じます。

しかし、八月踊りは基本的には口承してくものなので、集落内に伝える人がいないと途絶えてしまいます。少子化や若者の都市部流出によって、実際に途絶えてしまった集落もあるのではないでしょうか。

踊りとメロディーは繰り返しが多いのですぐに覚えられるのですが、問題は歌。 歌詞は古い奄美の方言であるため、現代の人は聞いただけでは何を言っているかさっぱり分からないことが多く、練習が必要です。

名音八月踊りの歌詞集

(名音八月踊りの歌詞集。今では使われない方言も多いです)

 

八月踊り保存会が立ち上がった理由

さて、大和村の西部に名音という集落があります。

海に面しており、他の三方は急峻な山に囲まれています。道路ができる以前は陸の孤島のようであったというその集落は、豊かな海、美しい川、そして聖なる奄美岳(湯湾岳)に続く深い山があります。

名音を見下ろした風景

(名音の祭祀場であるテラから見下ろした風景)

名音の青壮年団の國副平剛(くにぞえへいごう)さんは名音生まれ、名音育ち。

子どもの頃、八月踊りが好きな父親が、チヂンを叩き歌う姿を見ていたものの、覚えるキッカケがなく上京。35歳で島に帰ってきた時も集落で八月踊りは行われていたのですが、歌える人や踊れる人はわずかで途絶える寸前でした。

ある時、納涼祭の最後に行った八月踊りが続かず、すぐに打ち切ってしまったのを受けて、他の集落の方から「なんで自分の集落の八月踊りもできないの?」と言われてしまいました。そこで國副さんは、歌を絶やしてはいけない! 八月踊りを知っている世代が元気なうちに継承しなくては! と、2018年に保存会を立ち上げました。

チヂンを叩く國副さん

(クガツクンチ豊年祭でチヂンをたたく國副さん(写真中央))

とは言っても、八月歌は1曲が長く、曲数も多いので、全部うたえる人はいませんでした。そんな時、1991年に発行された田畑千秋著「奄美名音集落の八月歌」という冊子があることを思い出し、それを教科書として、どうにかミッシャ、カドコ、イッソの3曲を覚えることができたそうです。

現在、メンバーは15人ほど。毎週木曜日の夜に集会場に集まって練習し、歌える曲も6曲に増えました。

名音八月踊り保存会が目指すこと

八月踊り歌の収録

(八月踊りの歌を収録しているところ)

 國副さんはいいます。「初めは奄美祭りの『シマあすびの夕べ』に出ることが目標だったけど、今は奄美市名瀬で名音出身者を集めて八月踊りを踊ることが目標です。八月踊りをきっかけに若い人にも郷友会に入ってもらいたい。地元とのつながりを失くさずにいて欲しいから」と。

また、2020年3月には八月歌を録音し、名音小学校の朝の会と掃除の時間に放送してもらうことで、子どもたちに普段の生活の中で覚えてもらおうと計画しています。

自分たちが継承する、そして次世代に伝えていく。

これは言葉で表す以上に現実には難しいことかもしれません。でも名音の八月踊り保存会は、大好きなビールを飲みながら、仲間と冗談を言い合いながら、まず自分たちが楽しんでいるところが素晴らしいと思うのです。

名音フェスの八月踊り

(名音小学校体育館で開催された名音フェスでも八月踊りを踊りました)

ちなみに奄美群島のさまざまなアクティビティを集約した「あまみシマ博覧会」(https://shimahaku.goontoamami.jp/)ではこの名音八月踊り保存会の練習に参加することができます。
日々成長中の彼らの八月踊りをぜひ見に行って欲しいです。

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この記事を書いたフォトライター

小海ももこ

小海ももこ

新潟県十日町市生まれ。地方紙記者、農業、バックパッカーなどを経て、旅行雑誌や旅ガイドシリーズの編集に携わる。同時に、野外フェスの企画運営や、NPO法人で海外教育支援、震災復興支援を行う。2016年4月から奄美大島に移住。大和村地域おこし協力隊に就任。

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