マコモに魅せられて~秋名幾里の大地と共に生きる幸せ。藤井菊美さん

「ちょうど今、マコモの新芽がでてきたところなんです。かわいいでしょう」

まるで子どもの成長を見守る母のように、目を細めてうれしそうにそう話すのは、龍郷町秋名幾里集落に在住の藤井菊美さん、47歳。

笑顔がチャーミングで、柔らかな雰囲気が魅力的な女性だ。

藤井さんは、茨城県出身。

以前は茨城県でご主人と子育てをしながら、保育士の仕事をしていた。

移住のきっかけは10年前の東日本大震災。

「震災は本当に衝撃的でした。震災をきっかけに自分の置かれている環境や、自分自身の事も内観したんです」

それまでとそれからの生き方を、深く考え直したという藤井さん。

「そこから、何かピンとくる場所やモノを探していました。」

生き方を変えたい、そんな気持ちから移住先を探していたという。

そんなとき、ご主人の仕事仲間に奄美大島出身の男性がおり、「移住考えてるんだったら、奄美大島はどう?」と言われた。その言葉にピンときて、奄美について調べてみた。

奄美のことは鶏飯くらいしか知らなかったが、その文化や歴史、自然の豊かさを知り「これだ!」と一念発起。

旅行にすら行ったことはなかったが、直感に従うことにした。

東日本大震災から1年もたたない2012年2月。移住を決断してからはたった2週間。奄美大島の地で、新しい暮らしがスタートした。

運命の出会い

移住したのは、奄美大島の中心部である奄美市名瀬。次第に暮らしも落ち着き、徐々に知り合いも増えていったころ、龍郷町秋名で「マコモ」収穫の手伝いをしないか、という誘いを受けた。それこそが「運命の出会い」だった。

それまでマコモのことはよく知らなかったという藤井さん。

マコモが生える田んぼの中に、裸足で初めて入ったとき、魂が震えるような感動があったという。

マコモは大人の身長くらいの高さに成長する。その中に藤井さんが入ると、一面がマコモに囲まれたような状態になったという。

「マコモの林と、自分が一体化したような不思議な感覚でした。自然に溶け込んで、魂が震える感じがしました。この植物何?!とびっくりして色々調べ始めたんです。」

当時を思い出したのか、藤井さんの表情は、キラキラと輝いていた。

写真:藤井さんより提供

マコモとは

マコモとは、イネ科の植物で日本では古くから神事に使用されており、出雲大社のしめ縄にも使われれている。

万葉集にも登場するという、古から日本の生活の中にあったマコモは、成長した茎の部分は「マコモダケ」として食用にされており、奄美大島では炒め物や、油ぞうめんに入れて食べられている。

葉っぱを煎じてお茶にすると、すっきりとした飲み口で、お米のようなほんのりとした甘さが口の中に広がる。

藤井さんは、田んぼでの経験をきっかけにマコモの魅力に引き込まれていった。

青々とした葉はイネのようだが、生命力が強く育てやすいと言われている。ある時また、マコモの収穫を手伝いに来ていると、集落でマコモを栽培しているおじさんから

「田んぼもおうちも準備するから、ここにおいでよ」と声をかけてもらった。

その言葉通り、田んぼも家も集落の人たちが準備してくれた。魅力あふれるマコモがあり、移住者である自分たちを温かく迎え入れてくれた、秋名集落。まるで運命に引き寄せられるかのように、藤井さんがお子さんと共に秋名集落へ移住したのは、あまりに自然な流れに感じた。


集落の人たちへの感謝

秋名・幾里集落は、奄美大島随一の田袋が広がる集落。美しい田園風景が自慢だが、農家の高齢化は深刻で、担い手がおらず、休耕田になってしまっている田んぼも多い。

幾里に移住してすぐのころ、同じ集落にいたご夫婦も過去には田んぼをされていたが、体がきつくなってやめてしまっていた。

ご夫婦は藤井さんが田んぼでマコモを育てたがっていることを知り、休耕田だった田んぼを開墾してくれていたという。

「ある日、お父さんが一人で黙々と開墾してくれていて…本当に感動しました。」

「『あなたがマコモやりたいって言ってたからお父さんきれいにしてくれたんだよ』とお母さんから聞いて、本当にうれしかったんです。」

写真:藤井さんから提供。開墾してくれていたお父さんとお母さん。

そう語る藤井さんの目には涙が浮かんでいた。

最初の1年は育て方も分からないからと、ご夫婦と藤井さんの3人でマコモを育て始めた。

2年目は独り立ちし、自分だけでマコモ栽培を行った。

2年目以降も集落の人たちが、藤井さんのマコモ栽培をやさしく見守ってくれていたという。

「集落の皆さんは、私が一人でできるように見守ってくれていました。できていないところを手伝っちゃうのは簡単だと思うけれど、自分でやってごらんというふうに促してくれました。本当に困っているときには手を差し伸べてくれて、いつも気にかけてくださっていることを感じていました。おかげで寂しさを感じることはなかったです。」

マコモ祭りの開催

「集落の人たちへ恩返しがしたい」

そんな思いから、2015年龍郷町の秋名コミュニティーセンターで「マコモ祭り」を開催。

色々な人たちの協力を得ながら、マコモを使った食事や、マコモ茶などの販売を行った。

2020年は新型コロナ感染症の感染拡大のため中止としたが、2015年以来毎年「マコモ祭り」を行ってきた。

マコモの新芽と藤井さん

藤井さんはマコモ茶を作って販売している。

藤井さんによるとマコモ茶には抗酸化作用があるとされ、デトックス作用もあるそう。

一度良さを知ってもらえると、リピーターになってくれる顧客も多いという。

「マコモは調和の草。自然と人間の融合をしてくれる不思議な植物だと思っています。」

私も藤井さんのマコモの田んぼに連れて行っていただいた。

見た目はお米の稲に似ているが、稲よりもシャキッと立っているようにみえるマコモの新芽たち。

そこにながれる風や、きらきらと美しい水路、広大な山々の風景、想像していた以上の美しさに一瞬時を忘れてしまった。

藤井さん「田んぼで作業するのは大変なこともあるけれど、本当に気持ちがいいんです。時を忘れてしまうような感覚になります。」

その言葉の意味が私にもわかるような気がした。

「マコモのお茶を買ってくださるお客様がいて、喜んでくださるのは本当にうれしい。だけど本当にみなさんに体験してほしいのは、実際ここに来て、マコモの田んぼの中に入って、この感覚を味わってもらいたいんです。」

そう語る藤井さん。

自然と人間との融合、自然のありがたさを感じること、そういう経験が私たちにはもっと必要なのかもしれない。そう感じさせられた一日だった。

この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER

福岡県出身。二児の母。13年間東京で暮らし、2018年春に夫のふるさとである奄美大島に移住。元々は都会が好きで、移住には不安も感じていたが、奄美の人や文化に触れ今ではすっかり島の魅力に取り憑かれている。外から移住したからこそ分かる島の良さ、楽しいことをたくさん発信していきたい。

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