おばたちが作る本物の島じゅうりを若い世代へ。あらば食堂

奄美大島の郷土料理は、「シマジューリ」と言う。

「シマジューリ」は、島内のレストランや居酒屋などで食べることができる。けれど、本来の「シマジューリ」は、家庭料理。もっとも有名な「シマジューリ」である鶏飯(けいはん)でさえも、島の家庭それぞれの味付けがあるのだ。

舌だけでなく、心までもを優しく満たしてくれる、そんな本来のシマジューリである「おっかんの味」を食堂で再現し、提供してくれるお店が誕生した。

龍郷町幾里集落の「あらば食堂」。龍郷町の宿、食、交流を通して、ありのままのシマ(集落)の暮らしを届ける宿泊・交流拠点「荒波のやどり」内の飲食スペースとしてオープンした。

「荒場」とは、龍郷町の秋名(あきな)・幾里(いくさと)・嘉渡(かど)・円(えん)・安木屋場(あんきゃば)集落をまとめた「荒波(あらば)地区」のこと。過疎化がすすむこの地区の活性化を担う施設となっている。

オープンは2020年6月。
いまでこそ多くのお客さんが訪れる人気店だが、走り出しはスムーズではなかった。ちょうど新型コロナウィルスの感染拡大によって、飲食店の営業自体にブレーキがかかっていた時期。
当初予定していたオープン日も遅れ、さらに店内飲食はできずテイクアウトのお弁当販売のみでのスタートとなった。

「でも、その時のお弁当の経験が、今すごく活きています。ありがたいことに今でも地元の方からたくさんお弁当や盛り皿のご注文をいただいています。」

気持ちのいい笑顔で話してくださったのは森吉喜美恵(もりよし きみえ)さん。施設を運営する一般社団法人E’more秋名のスタッフだ。

森吉さんは秋名集落育ち。一度は都会に出たが、ご自身が幼少期に過ごしたような環境で子育てをしたいと考え、2018年にUターン移住。E’more秋名の代表・村上裕希さんに出会い、その活動方針に感銘を受けてスタッフとなった。

秋名で生まれ育ったからこそ知る、ありのままのシマの姿とその魅力。みなを巻き込みながら、村上さんとともに店の運営の中心を担っている。

地元客であろう年配の女性に料理をひとつひとつ、丁寧に、そして楽しそうに説明する森吉さんの接客はとても暖かく、親しみ深い。

日替わり定食ならぬ、おば替わり定食?

旬替わり定食

あらば食堂のウリは何といっても地元のおば(お母さん)たちが作る「シマジューリ」だ。

驚いたことに、それぞれのメニューには決まったレシピがない。

曜日によって担当するおばが変わり、野菜の切り方、味付けに至るまで、それぞれのおばたちに任せているというのだ。

調味料もそれぞれのおばたちが普段使っているものを、店で購入し、使ってもらっているという徹底ぶり。

「月曜日に来てもらっているおばには、このお醤油、このお味噌、というようにそれぞれのおばに合わせて準備しています。だから、同じメニューでも毎日味が少しずつ違うんです。」(森吉さん)

本物の家庭の味が体験できるというわけだ。

肝心の味はというと、どれも本当においしくて驚く。

素朴な家庭料理でありながら、繊細で上品さを感じる味付けだ。

旬を大事にしているというメニューには、荒場地区で採れた新鮮な野菜がふんだんに使われており、そのほとんどが無農薬。

荒場地区に住むおじ、おばたちが自分たちで作った野菜を「食堂で使ってよ」と持ってきてくれることも多いという。

出汁の取り方にこだわっているというお味噌汁も、じゃこ(いりこ)の香りで、ほっとさせてくれるおいしさだ。

「地元の人たちが喜んでくれるような、懐かしくて、でも今はなかなか食べられないようなものを提供したい」

取材時に頂いた「旬替わり定食」には、豚骨(わんほね)の煮物の横に「アザミ」が添えられていた。

豚骨の煮物に添えられたアザミ

アザミは奄美大島の一部の地区では食べられてきた野草だが、下処理に非常に手間がかかり、今では家庭で食べることも減ってきている。

これを食べた島内のお年寄りたちは「昔食べていたよ」「はげ、懐かしい」などと声をかけてくれるという。

懐かしい家庭の味を目当てに、住用や宇検、瀬戸内町からも車で2時間近くかけて何度も足を運ぶ常連客もいるそうだ。


島の昔ながらの家庭料理を若い世代にも知ってほしい

あらば食堂にはお子様ランチのメニューやソフトクリームもあり、テラス席や掘りごたつの席もあるため、子連れでもゆっくり食事が楽しめる。

「地元の年配の方にとても喜んでいただいているこの味を、子育て世代にも体験してもらいたい」と語る森吉さん。

食育の大切さが叫ばれるようになった近年、あらば食堂が、島の昔ながらの家庭料理を子育て世代が知っていく機会になればと考えている。

この店で腕を振るうのは、一流店で修業をしてきた料理人ではなく、大切な家族のために日々頭を悩ませ、「我が家の味」を作り上げてきた「おっかん」たち。家族みんなが喜び、健康に配慮し、そしてもちろん経済コストも加味して取り組んできた彼女たちは、ある意味最強の料理人だ。

そんな「おっかん」の味わいは、美味しいだけでなく、身体にやさしいだけでなく、ほっとするようなあたたかみがある。このお店で味わえるのはそんな料理なのだ。

私も奄美大島に住む一人の母親として、そんな料理を学び、作っていきたいな。すてきなおっかんの料理に舌鼓を打ちながら、そんなことを感じた。

あらば食堂

店名:あらば食堂

住所:鹿児島県大島郡龍郷町幾里421番

営業時間:ランチ 11:30~14:00/カフェ 14:00~17:00

定休日:水曜・木曜

TEL:0997-58-8842

この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER

福岡県出身。二児の母。13年間東京で暮らし、2018年春に夫のふるさとである奄美大島に移住。元々は都会が好きで、移住には不安も感じていたが、奄美の人や文化に触れ今ではすっかり島の魅力に取り憑かれている。外から移住したからこそ分かる島の良さ、楽しいことをたくさん発信していきたい。

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