奄美大島の自然、歴史、文化を分かりやすく展示。観光客も島民も楽しく勉強できる奄美博物館

島コト

2022/03/09

ペン

田中 良洋

令和元年8月にリニューアルした奄美博物館。多くの人に楽しんでもらえるよう趣向を凝らした展示は、島民、観光客問わず多くの人が訪れ「奄美大島のいろんなことが知られて良かった」と好評です。

自然も文化も歴史も、網羅的に勉強できる場所。観光で訪れた人はもちろん、奄美大島に住んでいる人にもぜひ訪れてほしい奄美博物館の魅力をお伝えします。

それぞれのフロアで異なる「あまみ」を

奄美博物館は、1987年7月に開館しました。30年以上奄美大島に関わる貴重な資料を収集保存し、展示公開してきた奄美博物館ですが、最新の研究成果を反映させた展示へとリニューアルすることに。

見どころはフロアごとに分かれたテーマです。それぞれ『あまみ』の文字をアレンジしてテーマを設けています。

1階は「海見」と書いてあまみ。日本歴史の記録に初めて登場した奄美の表記だそうです。奄美大島の導入部分で、大きな舟が特徴です。奄美大島の地形を表す模型やウミガメ、各集落の違いやシマ唄について紹介しています。

2階は「㭺美」と書いてあまみ。これは、1984年に福岡県の太宰府政庁跡から出土した木簡に「㭺美(あまみ)嶋」と記されていたことから名付けられました。奄美大島の歴史を展示しています。

奄美大島は大きく分けて4つの時代に分かれます。
約3万年前の旧石器時代から、琉球統治が始まる前までの「奄美世(あまんゆ)」。
琉球統治時代の「那覇世(なはゆ)」。
江戸時代に入り、薩摩に支配されていた時代の「大和世(やまとゆ)」。
アメリカ統治時代の「アメリカ世(アメリカゆ)」。
展示を一周回れば、それぞれの時代の変移が分かるように展示されています。

3階は「雨見」と書いてあまみ。これは14世紀の日本地図に記された奄美です。降水量が多い奄美大島を『雨を見る』と表現し、自然の様子を展示しています。フロアを訪れて、まず驚くのが森の一部を切り取ってきたかのようなジオラマ。動物たちの生活がリアルに展示されています。自然だけでなく、自然の中で奄美大島の人々がどのように生活し、文化を育んできたのかが学べます。

島にあったものを活用した展示

1階にある蔵書スペースには、奄美大島関連の本が並びます。ここで注目してほしいのはこの本棚。実は、舟を2つに切って本棚にしています。

リニューアルの際、各フロアの設計をしているとき、ここに舟の本棚を置きたいというアイデアが提案されました。島内で使っていないイタツケを探したところ、たまたま瀬戸内町で壊れたものがあるという情報が入り、これを譲り受けて本棚に生まれ変わりました。舟の先端には「3」の文字が。最近まで舟こぎ競争で使われていたものだという証拠です。

2階には、民具とともに『南島雑話』が紹介されています。奄美大島の人々の衣食住や生業、動植物が描かれている『南島雑話』は、幕末の薩摩藩士・名越左源太(なごや さげんた)が著した、奄美大島の歴史を知る貴重な古文書です。

奄美大島の生活を絵と文章で表した『南島雑話』では、左源太さんが見た風景が垣間見られます。『南島雑話』で描かれた民具の中には、当館が所蔵するものもあり、実物資料も一緒に展示しているものもあります。幕末から使われていた数々の民具が、今もきれいな状態で残っていることも驚きです。

子どもも大人も楽しめるように

リニューアルした奄美博物館の特徴は、体験できる展示がたくさんあるところ。1階に展示されている舟は、乗って写真を撮ることができるフォトスポットになっています。

2階では、さとうきびの絞り機や大島紬の機織り機を触って動かすことができます。
3階はタッチパネルの図鑑が用意されていて、興味のある動物をタッチすると説明が表示されるだけでなく、ジオラマの中に隠れた動物にスポットライトが当たります。子どもたちは、どこに動物がいるか夢中になって探しています。

絵柄を組み合わせてできる動物パズルなど、いろんなところに子どもが楽しめる工夫があります。今後、1階にはキッズスペースも設け、生き物の絵本やパズルなど、小さいお子様でも生き物のことが学べる場所を作ろうと計画中です。

もちろん、すでに奄美大島の文化や歴史に精通している人でも勉強できる要素がたくさんあります。1階で紹介されている各地域での方言の違いや、3階の月ごとの自然と文化の関わりなどは奄美博物館ならではの展示です。

奄美博物館が果たす4つの役割

博物館には4つの役割があります。「調査研究」「収集保存」「教育普及」「展示公開」です。

今でも新しい発見がある奄美大島。毎年のように新種の生き物が発見されたり、島の成り立ちや歴史についても新しい説が発表されたりしています。正しい専門性を持ち、新しい情報を収集して公開展示していくのが奄美博物館の役割です。

学芸員の方が奄美大島の学校で環境授業をおこなうこともあります。これは「教育普及」にあたる仕事。年に40回以上環境授業をおこなっている奄美博物館の平城達哉(ひらぎたつや)さんは「島の未来は明るい」と話します。

「すごく詳しい子どもがたくさんいて、驚かされます。アポイントを取ってわざわざ質問に来てくれる子もいるほどです。いつか今の子どもたちが大きくなって『昔、平城さんの授業を聞きました』と言われるのが夢ですね。」

敷居が高いと感じられてしまう博物館ですが、奄美博物館では企画展をしたりコンサートをしたり、市民との距離が近くなるイベントを定期的に開催しています。

これからも奄美大島の貴重な資料を保存し、最新の研究成果を分かりやすく伝える施設となるよう努めていきます。観光客も島の人も新しい発見がある奄美博物館。島に訪れたらぜひ立ち寄っていただきたいところです。

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この記事を書いたフォトライター

田中 良洋

田中 良洋

映像エディター/予備校スタッフ 兵庫県出身。奄美群島の文化に魅かれ、2017年1 月に奄美大島に移住。島暮らしや島の文化を伝えるために自身のメディア、離島ぐらし(https://rito-life.com/)を運営する。

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