道路の上に高さ172mの絶壁! 展望台が完成した徳浜の断崖

奄美大島の中西部に位置する大和村(やまとそん)。西側は夕日が沈む海があり、東側は奄美最高峰の湯湾岳(ゆわんだけ)があるため、山の傾斜度が大きく、海からすぐに山がそびえているイメージです。その分、切り立った岩場や見晴らしの良い展望台があり、ダイナミックな風景が楽しめることが魅力です。

今回はその中でもぜひ一度は見て欲しい「徳浜の断崖(どくばまのだんがい)」をご紹介します。

 展望台から見る徳浜の断崖

県道に立ちはだかる断崖

大和村の海沿いを走る県道79号線を南西に向かい、ヒエン浜を過ぎ、緩やかなカーブを曲がると目の前に大きな断崖が立ちはだかります。これは「徳浜の断崖」で、地元の人からはガマ(=断崖)と呼ばれています。高さ172メートルでほぼ垂直。県道はこの断崖の真下に掘られたトンネルに繋がっています。崖の真下から見上げてみると「岩が落ちてきたらどうしよう……」と少し怖くなるほどです。

真横から見た断崖

崖と海を堪能できる展望台が完成

2021年にこの断崖を眺めるための展望台が完成しました。その名も「崖の下 海の上 徳浜展望台」です。駐車場が整備され、展望台ができたことで安全に眺めることができるようになりました。

駐車場から階段を登り、展望台から断崖を眺めると、真下から見るよりも岩肌がよく見えます。この岩層は、瀬戸内町の太平洋側まで延びる名音珪岩層(なおんけいがんそう)と呼ばれるもので、約5億年前の地層といわれているそうです。5億年というと恐竜が繁栄するずっと前、オウムガイや三葉虫などが栄えた時代。そんな昔の岩層が目の前にあるというのはなんだか不思議な感じがします。

また、この断崖自体は鎌倉時代の大地震によってできたと伝わっています。どんな大きな地震がおこったのでしょう。

県道沿いに設置されている展望台の階段

断崖に悲願の名音トンネル開通

今では展望台ができて名所となっていますが、以前は集落間を阻む交通の難所でした。

断崖の下を走る名音(なおん)トンネルは、1968年(昭和43年)10月に開通しました。山全体が硬い珪岩層でできているため難工事だったと伝えられています。そしてこのトンネル開通によって、大和村の全集落を県道が通り、その2年後に名瀬までバス路線が開通したのです。

ちなみに、県道が開通する以前は、細い山道を歩くか、船で海を渡るしかありませんでした。特にこの山越えは勾配がきつく、島内の三大難所ともいわれていたそうです。今でも山を見上げると「ここを歩いて登ったのか……」と唖然とします。

当時の村長は、バス開通の祝賀会で「バス開通は大和村にとって新しい文明の幕明けだ。陸の孤島という汚名は今日限り捨てられた。」とあいさつしたことから、トンネルが開通した喜びを感じられます。

ドローンで断崖を真上から撮影、前方に小さく車が見えます

実は奄美群島国立公園の一部

徳浜の断崖とその周辺は、奄美群島国立公園に含まれています。

奄美群島国立公園は、奄美大島から与論島までの8島とその周辺海域。公園のテーマは「生命にぎわう亜熱帯のシマ ー森と海と島人の暮らしー」で、豊かで多様な自然環境と固有で希少な動植物からなる生態系、そして人と自然のかかわりから生まれた文化景観が残されているという特徴があります。

特に地形としては、山地のある高い島と、低く平らな島の2種類。奄美大島は起伏が大きく、山地が海岸線まで迫り、周辺は切り立った崖をなして平地が少ないという高い島。中でも徳浜の断崖は、その傾向を顕著に表しているといえます。

国立公園の第3種特別地域になるので、鉱物や土石の採取、指定植物や動物の採取等、許可が必要な行為があります。訪問する際は、保護されている場所ということを忘れず景観を損なうことのないようにしたいですね。

国立公園に含まれている海岸線エリアで、左がヒエン浜、真ん中が阿山崎(あさんざき)、右が徳浜の断崖です

断崖の四季と楽しみ方

4月にはこんな断崖にもテッポウユリが咲き、少し華やかになります。また、北風がおさまるので、太陽が差し込むと底まで見えそうな程の透明度の高い海を楽しめます。

夏は波が穏やかで、釣り人もよくやって来ます。一度シュノーケルで泳いでみたことがあるのですが、周囲にはサンゴ礁がたくさんあってとてもきれい! 断崖の下は少し深くなっていて、岩の穴を通ってみたり、断崖を海面から見上げたり、普段とは違う視界が新鮮だった思い出があります。また、釣り船やカヤックから海中をのぞいても、ウミガメや魚たちを堪能できますよ。

冬は一転して、近づき難いほど波が荒れます。北西からの風がダイレクトに当たり、県道に波しぶきがかかるほど。断崖下の浜辺にある石はこの激しい波に揉まれ、綺麗な丸石になっているため、大和村では毎年ここの石を集めて戦没者の忠魂碑の周りに敷き詰めています。

私は奄美に移住して5年が経ちますが、今でも徳浜の断崖を通る度にハッとさせられます。そして離島らしからぬこのダイナミックな景観を眺めては、崖の上に立ったことを想像して身震いしたり、岸壁に生きる動植物の強い生命力を感じたりします。

皆さんも、もし徳浜の断崖を通りかかったら、崖の下海の上徳浜展望台に登ってみてください。きっと、奄美大島に新しい印象が追加されると思います。

徳浜の断崖

・住所:〒894-3212鹿児島県大島郡大和村大字名音30

・電話:0997-57-2111

・HP:https://www.vill.yamato.lg.jp/kikaku/shisetsu/kanko-spot/017.html

この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER

新潟県十日町市生まれ。地方紙記者、農業、バックパッカーなどを経て、旅行雑誌や旅ガイドシリーズの編集に携わる。同時に、野外フェスの企画運営や、NPO法人で海外教育支援、震災復興支援を行う。2016年4月から奄美大島に移住。大和村地域おこし協力隊に就任。

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