島内で唯一残る奄美の原風景「大和浜の群倉」

奄美大島の中部西側に位置する大和村(やまとそん)。深い緑の多く残るエリアです。
大和村の中心部、県道沿いを車で走ると、山陰に何やら古い建築物が数軒並んでいるのを見かけます。これは群倉(ぼれぐら)といって、かつての穀物倉庫である高倉が集まって建てられていることをいいます。

群倉(ぼれぐら)という呼び方は、奄美の方言で「群れる」ことを「ぼれる」と言うところからきているそうです。

鹿児島県の文化財として指定されている群倉ですが、見た目はなんとも地味。しかし、きっと観光客が思っている以上に、地元の人はこの群倉を大切にしています。誇りを持っているといっても過言ではないでしょう。今回はきっとあなたも好きになる「群倉の魅力」をお伝えします。

大和浜の群倉

高倉とは?

まず、群倉のある場所は大和浜(やまとはま)という集落です。この群倉のある場所は、もともと川を挟んで田んぼが広がっていました。人々は田んぼで取れた米や雑穀を、この高倉に貯蔵。なんと、最大米俵80俵、合計4.8トンが収納できたとか!

高倉の床は竹スノコや板張りで通気性を良くし、茅葺き屋根は厚く強い日差しから穀物を守ります。ネズミが上がれないように高床式で、柱はツルツルに削ってあります。

涼しい風が通り抜けて気持ちがいい高倉の下

この高倉の下は雨を避けたり、日差しを避けたりできる作業場でもあったようです。高倉の下にぜひ立ってみてください。風が気持ちよく吹き抜け、居心地が良いと感じます。

奄美大工の傑作、驚きの造り

高倉の何がすごいって、モノのない時代にこれを造った大工さんの工夫です。

まず、釘を一本も使わずに、木材に切り込みを入れて、丈夫で美しくなるように組まれています。

高倉を下から見上げてみてください。整然と並んだ骨組み。床を支えるココノツギという根太(ねだ)は流線型に削られ、四隅は反り上がって美しい形状を見せています。

9本並んだココノツギは、端が流線型に削られていて美しいです

倉の骨材のほとんどはイジュの木。イジュは、純白の可愛らしい花が咲くことでも有名ですね。木の部分は水に強く、硬いという性質があります。屋根を支える棒は、イジュの若木の皮を剥いで乾燥させたものを使っているそうです。桁(けた)には水やシロアリに強いモッコクが使われることもあるそうで、大工さんたちは木材の性質を良く知っていたのだと感じました。

高倉を修繕した時に見えた骨組み
屋根の外側部分は宮古崎のリュウキュウチク(琉球竹)も使用して耐久性をあげているそうです

また、高倉は強風に揺れることはあっても、倒れることはありません。しかし、移動させたい時には貫木(ぬきぎ)を抜いて、柱につけた縄を回すように引けば容易に倒れるそうです。

地元の方に「以前、庭の高倉を移動させた時、柱は臼に乗せて転がして運んだよ」と聞きました。移動も想定した建築物なんですね。

なぜ高倉を集めて建てたのか?

大和浜の群倉は、かつて大和川沿いに3つの群に分かれて合計27棟の倉が並んでいたといいます。なぜ、昔の人は高倉をこの場所に集めて建てたのでしょうか。

大和村史を開くと、下記のように書いてありました。

理由の1つ目は、火事を避けるため。

大和浜の集落は海沿いに家が密集しています。昔は木造の平屋で、茅葺き屋根だったので、火事が起こったら一気に燃え広がる恐れがありました。もし、家と一緒に高倉が燃えてしまったらその後の食料まで失ってしまうため、集落から離して建てたようです。

2つ目は、川や田んぼが近いので、火事になった時すぐ消火できるため。

3つ目は、川沿いの風通しが良い場所に建てることで、高倉内の通気性を良くして穀物の乾燥させるため。

4つ目は、田んぼや畑などの農地に近く、作業としても便利だったため。

昭和30年代頃の高倉の様子(提供:大和村)

しかしながら、1957年の県道拡張工事や大和川の治水工事などで、川沿いの群倉は移動したり、撤去されたりしてしまいました。今からすると残念に思いますが、当時は、奄美群島が日本復帰して5年目で、本土に追いつこうとインフラを整えることに注力していたのだと思います。

大和浜の群倉のこれから

昔は機械もなく、山から切り出して運ぶところから全て人力で行ったといいます。そして建てる時は集落総出で協力して造ったそうです。だから、高倉は個人のものだとしても、みんなで建てたという共有財産的な感覚があるのかもしれません。

年配の方に伺うと、「子どもの頃は、かくれんぼしたり、スズメを捕まえて遊んだよ」と顔をほころばせます。

驚いたことに、昭和初期は、奄美群島のどこの地域でも20〜30棟の群倉が建っていたそうです。しかし、道路の拡張や、稲作の衰退、生活様式の変化などで、現在は大和浜の群倉だけとなってしまいました。

左側の川沿いに大和浜の群倉があります

この群倉がある風景は、貴重な奄美の原風景なのだと思います。

大和浜の群倉にある高倉の建築年齢は、ほとんどが100年を超えていますが、まだまだ健在。大和村は、これからもこの貴重な財産を残すために、屋根の葺き替えや、環境整備に努めていく予定だそうです。

皆さんも、もし通りがかることがあったら高倉の下に立って、古き良き奄美に思いを寄せてみてください。

大和浜の群倉(県指定有形文化財)

住所:鹿児島県大島郡大和村大和浜84

電話:0997-57-2111(大和村役場)

アクセス:大和村役場から徒歩2分

見学自由、無料

駐車場あり

この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER

新潟県十日町市生まれ。地方紙記者、農業、バックパッカーなどを経て、旅行雑誌や旅ガイドシリーズの編集に携わる。同時に、野外フェスの企画運営や、NPO法人で海外教育支援、震災復興支援を行う。2016年4月から奄美大島に移住。大和村地域おこし協力隊に就任。

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