こんなところにお茶屋さん!?古仁屋にひっそりと佇む「お茶のふじえん」

島食

2022/09/25

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有村 奈津美

島はゆったりと時間が過ぎていき、のんびりできそう、というイメージを持たれる方も多いのではないでしょうか。

確かに自然との距離感が近い島での暮らしは、色んなものがせわしなく動いている都会に比べて、ゆったりしているかもしれません。

しかし、島人なら共感してもらえると思いますが、意外と島の生活はせわしないもの。ご近所付き合いに集落・親戚の集まり、子どもの学校行事や車での送迎など、一人で過ごせる時間はなかなかないもの。

そんな生活の中でも、ほっと一息つける小さなお茶屋さんが、瀬戸内町古仁屋(せとうちちょう・こにや)にあるとのことで、行ってきました。

ゆったりとした時間が流れる店内

瀬戸内町古仁屋へは、奄美市名瀬の市街地から南部へ車で約1時間。その中心街に位置し、緑を基調とした外観とのれんが目印のお茶屋さんが「お茶のふじえん」です。

のれんをくぐると、人通りの多い道路に面しているとは思えない、落ち着ける雰囲気漂う空間が広がっており、大人の隠れ家的な印象です。

入り口からすぐ入ったところに販売コーナーがあり、その奥が喫茶スペースとなっています。

お茶のふじえん販売コーナー
お茶やお茶関連グッズの販売コーナー

販売コーナーでは、昭和の初めから取引があるという鹿児島のお茶屋さんから仕入れた煎茶や、玄米茶や番茶などの茶葉から、手軽に淹れられるティーバッグタイプのものまで多数取り揃えています。

お茶だけでなく、ようかんやおせんべい、かりんとう、くず餅など、お茶と一緒に食べたら美味しい食品もあるので、お茶とセットで買って、自宅でゆっくりお茶タイムをするのも楽しそうです。

また、可愛いパッケージのティーバッグタイプや、水出し茶を作るのに便利なフィルターインボトル、そして、お茶とお茶菓子や茶そばがセットになった商品もあるので、ちょっとした贈り物にもぴったりですよ。

お茶を「日常」に取り入れつつも、そこにちょっとした「特別」もプラスされるような商品が並んでいて、見ているだけでワクワクしました。

そして店内の奥の方には、淹れたてのお茶やコーヒー、スイーツが楽しめる喫茶スペースがあります。目を引くのは、喫茶スペースの壁一面に並ぶ、オーナーの藤井 愛一郎(ふじい・あいいちろう)さんが選んだ本や雑誌。

観光、文化・歴史、子供向けの絵本など色んな種類の本が並ぶ本棚

「お茶を飲みながらゆったりとした時間を過ごしてもらいたい」という藤井さんの想いが込められている喫茶スペースですが、お客さんが本の作家さんを連れてきたり、たまたま作家さんがお茶を飲みに来ていたり、本の続きを読みにくる常連さんがいたりと、本がきっかけで思わぬ形で交流が広がっている、と藤井さんは言います。

ほうじ茶ラテと抹茶のシフォンケーキ

喫茶スペースでは、抹茶、煎茶、ほうじ茶などのお茶メニューはもちろん、季節のパフェやソフトクリーム、シフォンケーキなどのスイーツも楽しめます。

お茶屋さんですが、コーヒーやカフェオレ、コーヒーフロートなどコーヒーメニューもあるので、コーヒー派の方にもおすすめです。

また、お茶屋さんならではの抹茶ソフトクリームもぜひ試して欲しい逸品です。目にも鮮やかなグリーンカラーのソフトクリームは濃厚な抹茶の味と、ほんのりとした苦みが味わえます。テイクアウトも可能なので、ソフトクリーム目当てにいらっしゃるお客様も大勢いらっしゃいます。

抹茶パウダーと玄米茶のもとがトッピングされた抹茶玄米ソフトクリーム

藤井さんが喫茶スペースのあるお茶屋さんを始めたきっかけ

「お茶のふじえん」の歴史は長く、お店が始まったのは、なんと昭和の初め頃。当初は、お茶の販売のみを行っていました。

今回、お話を伺った藤井愛一郎さんのひいおじいさんが、鹿児島からお茶を仕入れ、お茶屋さんを始めたとのことですが、当時の古仁屋の街は、鹿児島からの移住者だったり、鹿児島の支店となる呉服屋さんがあったりして、とても賑わっていたそうです。

創業当初から同じ問屋から仕入れているお茶
創業当初から同じ問屋から仕入れているお茶

人口も多く、お茶もとても売れていた時代を経て、藤井さんがお店を継いだのが2007年。

元々、東京で日本茶を売る仕事をしていた藤井さん。ただお茶を売って、お客さんはお茶を買って帰る、というサイクルに少し違和感があった、といいます。

「お客さんとお話を交わしたり、お客さんがお茶を飲みながらどういう風に時間を過ごしてくれてるのかを知りたい」という想いから、2014年にカフェ併設という新しい試みに踏み切ることに。

今はお客さんのお茶を楽しむ様子が垣間見れたり、会話をしたりすることができ、満足している、と教えてくれました。

お店に来るお客さんに一番大事にして欲しいもの

今回、取材をしていて一番驚いたのは、藤井さんの「うちはあまり思い出に残らないお店でありたい。あ、あそこ、なんか良かったね、くらいが丁度いい」という言葉。

その言葉に驚いていると、続けて「僕の淹れるお茶は心がこもっていない、ってよく常連さんに言われるんですよね~」と笑いながらつぶやきました。

お茶を淹れる藤井さん
お茶を淹れる藤井さん

その言葉を掘り下げていくと、お茶やお菓子はあくまで脇役で、お客さんがここで過ごす自分と向き合う時間やぼーっとする時間、友だちとお話する時間、そういった時間を一番大事にしたい、という藤井さんの想いが見えてきました。

お茶のふじえんのパンフレット
お店のパンフレットに書かれている言葉

お店のパンフレットにもしっかりとその想いは刻まれています。

お茶屋さんとして、美味しいお茶を淹れるものの、それをお客さんに押し付けることなく、お茶を飲みながら店内で過ごす時間を良いものにして欲しい、と語ってくれました。

日本茶とシフォンケーキのセット
日本茶とシフォンケーキのセット

私も藤井さんが淹れた日本茶と奥様が焼いたシフォンケーキをいただきましたが、ふわーっと優しい美味しさが口の中に広がり、何よりも静かな空間で味わう、ということに心が満たされました。

「お茶のふじえん」のこれから

これからも、お客さんにとって居心地が良く、一日の中で自分と少しでも向き合える時間が過ごせるような場所を提供したい、という藤井さん。

そんな藤井さんのモットーは、「頑張らないけど、ちょっと頑張る、その上でもうちょっと楽しく、積極的に楽しく過ごしたいって思った時には、ほんのちょっとだけ背伸びすること」と語ってくれました。

もしかしたら、藤井さんの肩肘張らず、自然体で過ごす姿が、このお店の居心地の良さを作っているのかもしれません。

また、現在の静かでゆったりと過ごせる店内の様子とは対照的に、コロナ前は落語会やテーブルマジック、読書会なども行っていたという「お茶のふじえん」。

訪れる方がお店を通して、新しい情報を得たり、人と交流できたり、趣味が見つかったり、何かに気づくきっかけになるような場も作っていきたい、と話す藤井さん。

これからどんなお店になっていくのか、ますます楽しみです!

奄美大島の南端、瀬戸内町古仁屋にある小さな、でも奥が深いお茶屋さん。ぜひ足を運んでみてくださいね。

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この記事を書いたフォトライター

有村 奈津美

有村 奈津美

奄美生まれ奄美育ち。大学から上京し、IT企業で1年半勤務。自然と共生したい、という想いから、2020年7月に島にUターンし、島の魅力を再発見中。サーフィンと自然と旅が好き。島での日常はInstagram(https://www.instagram.com/natsumi_arimura/)で発信している。