本物の自然を活かした観光を。40年以上奄美の自然・動植物と向き合い続ける自然写真家 常田守さん

島人

2022/12/09

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有村 奈津美

常田さん顔写真

「島の自然を熟知した人と言えば、常田さん」と言えるくらい、長年にわたり奄美の自然や動植物と向き合ってきた常田 守(つねだ・まもる)さん。その年月は、なんと約40年以上。

自然写真家、エコツアーガイドでもあり、奄美自然環境研究会の会長も務めています。

2021年7月に奄美大島が世界自然遺産に登録されるにあたって、その登録に向けて尽力したうちの1人でもあります。

今回は、そんな奄美の自然を深く知る常田さんに、自然に興味を持つようになったきっかけから、奄美の魅力、これからの観光の形にいたるまで、お話を伺ってきました。

常田さんが自然に興味を持つようになったきっかけ

常田さんは、1953年、名瀬市(現奄美市)生まれ。

「小さい頃から家の近くのおがみ山(奄美市名瀬の中心街が見渡せるシンボル)が遊び場で、暇さえあればおがみ山に登っていたことから、山に入るのは全然怖くなかった」と話す常田さん。

じょうごの川を歩く常田さん

高校を卒業し、鹿児島の専門学校を出た後、奄美で歯科技工士として働いたのち、20代半ばの頃、仕事でのさらなる成長を求めて上京しました。

しかし、当時、歯科技工士としての技術や経験は奄美の方が先を行っていることに気付きます。

それでも、東京や近隣の県では、野鳥を見る機会がたくさんあり、以前から興味のあったカメラを手に入れました。

カメラを構える常田さん

それからは歯科技工士として勤務しながら、雑誌の教室でカメラの技術を学んだり、屋上から望遠レンズで野鳥を撮ったり、休みの度にカメラを片手に自然と触れ合えるような場所に出向くようになりました。

常田さんは、常に目の前に映る東京の自然の風景を奄美の自然と重ねていた、といいます。

「たまたま住んだ井之頭のところに、オナガという鳥がいて、その鳥はカケス科でルリカケスとちょっと似てるの。それで屋上から望遠レンズでオナガを撮影しながら、気持ちはルリカケスを撮っているつもりだった。」と、当時を振り返ります。

ルリカケス
羽を広げて飛ぶルリカケス(写真提供:常田守)

ある日、多摩川に水鳥を撮影しに行った際、当時、公害で川が汚れてしまっていた時代だったにも関わらず、目の前をカワセミが飛んで行った姿を見て、直感的に「もう奄美に帰ろう」と感じたそうです。

奄美の方言では「カンジリ(神様の鳥)」と呼ばれるカワセミ。そんなカワセミが常田さんに何かしらのメッセージを送ったのかもしれません。

カワセミ
カワセミ(写真提供:常田守)

バードウォッチャーから自然写真家への転身

島に帰ってきてからの常田さんは、しばらくカワセミを追いかけ、次にアカショウビンを探すようになりました。

当時は、鳥の分布などのデータを取っている人はおらず、とにかく鳥を探しに、海に山に、請島(うけじま)、与路島(よろじま)、加計呂麻島(かけろまじま)にまで足を運んだといいます。

アカショウビン
アカショウビン(写真提供:常田守)

ずっと野鳥を観察、撮影するバードウォッチャーだった常田さんですが、あるとき転機が訪れます。

それは、アカショウビンが名前の知らないエサをくわえてきたときのこと。エサの名前が分からなかったことで、今度はエサに興味を持つようになりました。

「食べられる側から鳥を見てみようと思った。いつも鳥を中心に自然を見ているけれど、食べられる側から鳥を見たら、どういう風に見えるんだろうと思って。」

そして、それからはアカショウビンの巣を探しては、巣の前で待機するようになり、昆虫から両生類、爬虫類、甲殻類まで、色んなエサをくわえて帰ってくる様子を観察しました。

若い頃の常田さん
若い頃の常田さん(写真提供:常田守)

エサに興味を持ち始めたら、自然と近くにある植物の名前も調べるようになり、気づいたらカメラを担いで夢中で山歩きをするようになっていたといいます。 

常田さんから見た奄美の自然

昼夜問わずカメラを担いで山に入り、奄美の自然と向き合い続けること約40年の常田さん。

そんな常田さんに奄美の魅力を聞くと、こんな答えが返ってきました。

 「365日24時間いつ見ても常に変化があって、飽きないということ。一番は、自分のふるさとだっていうのがあるんだろうけど、やっぱり奄美っていうのは面白い。飽きない。固有種、つまり奄美大島から滅びたら、地球上から滅ぶっていうのが800種もあるの。動植物、昆虫含めてね。本当に奇跡の島。」

一般的には夏の海がイメージされる奄美大島ですが、春夏秋冬、それぞれ森の中の景色や見れる動植物の種類も変わっていくので、その季節ごとの山の様子も楽しんでほしいといいます。

奄美最高峰の湯湾岳
奄美最高峰の湯湾岳(ゆわんだけ)新緑(写真提供:常田守)

また、近年注目を集めている金作原(きんさくばる)の他にも、「タンギョの滝」、「ガジュマルの木」、巨樹「ハマイヌビワ」など、色んな観光コースを開拓予定とのことです。

ハマイヌビワ巨樹
ハマイヌビワ巨樹(写真提供:常田守)

「奄美には、まだまだ知られていない素晴らしい自然が見れる場所がたくさんある」と話す常田さん。

色んなエリアに、その人のニーズに合った観光コースがある、その多様性がまた奄美のさらなる魅力となりそうです。

自然を守っていくために私たちに出来ること

「2021年7月に世界自然遺産に登録されたことで、我々にはこの自然を何世代にも渡って、保護していく義務がある」

そんな常田さんが自然を守る上で何よりも大事だと語るのが「知ること」。

常田さん顔写真②

「奄美大島にはどれだけの固有種がいて、どういう地に生息していて、どうしたら守っていけるのか。知らないことには何も見えてこない。知った上で色々見えてきたら、それを当然守ろうという気持ちになる」

多くの人に自然のことを少しでも知ってもらおうと、コロナ禍前は月に1度ほど、保育園生から大人まで幅広い年代を対象に、マングローブの干潟で観察会を行っていました。

そしてこの数年は、奄美の動植物や世界自然遺産の目的について学ぶためのオンラインツアーにも力を入れています。

マングローブ原生林
住用(すみよう)のマングローブ原生林(写真提供:常田守)

「今までは、奄美に住む大人たちが、奄美は何もない島って言っていた。しかし子どもたちは、大きくなって内地に出ていく。そのとき、その子どもたちが島の自然を知り、語ることですごい人数のメッセンジャーになるの。そういう風に考えれば小さい子供のうちから見せて教えていくことが大事」

世界自然遺産としての奄美の観光の未来

「自然写真家」として森の中で動植物と40年間向き合い続けている常田さん。

 観光=開発が主だった頃から「自然保護」を訴えてきたことで、観光に反対していると言われたこともあったといいます。

住用川支流
住用川支流(写真提供:常田守)

しかし「観光を否定したことは一度もない」と常田さんは言い切ります。

 「大事なのは、大人数で訪れることのできる場所と、本物の自然が見たい人が行く場所を分けること。見せるべきものを見せて、守るべきものは徹底して守る。自然って観光の商品だよ。そこで、大人数に本物の自然を見せようとして道路を作ったり、自然を壊したりしようとするからおかしくなる。」 

特に世界自然遺産に登録された今、世界中から奄美にしかない「本物」を見に人が集まってくる。そんな中でどうやって自然を守り、そしてその自然を観光につなげていくのか。もっというと、お金に変えていくのかは島民の努力にかかっているといいます。

観光客が島に来てくれたら、宿泊や飲食業、ガイド業、地場産業など島の人の暮らしが豊かになる。でもそれは「本物の自然」があってこそ。

そして、島の若者たちに一度は島の外に出てほしいと繰り返し主張します。

「島の中にいたら、島のことは見えない。外に出ることによって初めて比較できるようになる。私が東京に出て、奄美大島ってすごい島だったんだって気づいたわけ。ちょっと離れてみて、比較することによって自分の住んでいる奄美大島がいかにすごいか、宝の島かってことに気づくんじゃないかと。」

アマミノクロウサギ
国の天然記念物アマミノクロウサギ(写真提供:常田守)

自然保護を訴える常田さんは「変わり者」扱いされてた時期もあったそう。それでも自然を守れる方法を考え続け、今は奄美が世界自然遺産にも登録されました。

今の自然を守ること、やっているときは目に見えなくても、将来には必ずプラスに働くときがやってくると常田さんは教えてくれました。

先人たちがずっと守ってきてくれた「本物の自然が残る奇跡の島」。

そんな奄美大島の未来を、これからは私たちの手で守っていきたいですね。

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この記事を書いたフォトライター

有村 奈津美

有村 奈津美

奄美生まれ奄美育ち。大学から上京し、IT企業で1年半勤務。自然と共生したい、という想いから、2020年7月に島にUターンし、島の魅力を再発見中。サーフィンと自然と旅が好き。島での日常はInstagram(https://www.instagram.com/natsumi_arimura/)で発信している。

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