本場奄美大島紬は、大きく分けて30数工程があり、一反が織りあがるまでに半年近くかかる、高度で熟練した技術が必要とされる織物だ。
その本場奄美大島紬を織りたくて、奄美大島に移住をした20代の女性がいる。
「成人式の時、着物を知り合いの着付けの先生に着付けてもらって思ったんです。どうして、日本人なのに、着物が着れないんだろう、って」
山口つぐみさんはそう語る。
鹿児島県出身。18歳の時に進学のために上京。大学では写真学科を専攻した。
「在学中にインドに旅行に行ってサリーを着ている女性を見た時にも思いました。ほかの国では、皆が、民族衣装を着ているのにどうして? と」
在学中に着付けを習い始めると、どんどん着物に対する興味が湧いてきた。
「自分の中では着物と言えば、京都の友禅が西陣か、奄美の紬でした。鹿児島出身だから、より紬が身近に感じられたというところもあるかもしれません」
そして、大学在学中、まず、下見のために奄美大島に訪れた。
「京都も見に行ったんですけれど、奄美大島の方が体に馴染む感じがしたんです。そもそも、着物としても紬のシンプルでシックな図案が好きでした。大学を卒業したら、ここで、紬を織る。ごく自然と、そう思えたんです」
2014年4月から本場奄美大島紬技術専門学院にて、紬の技術を学び始めた。
そして、2015年8月、本場奄美大島紬の織りの工程で出る絹糸を利用したアクセサリー、小物類を販売するAtelier limaを奄美大島の中心街、名瀬末広町でオープンする。
「2014年にツムギズムという、紬をもっと盛り上げていこうとするイベントがあって。染色家から織り手、販売店の方までいろんな方がどうやって紬の伝統を繋いでいこうかと話し合っていたんですが、そこで誰かがやってくれるのを待つだけじゃだめだ、と思ったんです。自分でもやらなきゃ、と」
そこで、現在のAtelier limaの共同経営者と、まずは本場奄美大島紬の素材を使ったアクセサリーを作り始めた。
「織りをしていると余りの糸が出てくる。それがもったいないということもあり、相方と糸に注目してアクセサリーをつくりはじめました」
最初はフリーマーケットなどで販売をした。いくつかのショップに委託販売の声をかけてもらったが、自分たちの手で売りたい、という気持ちがあり、お断りをした。
「紬はそもそも手作業で織られるもので、お店に置いているアクセサリーも全てハンドメイド。だったら、お客さまの顔が見える状態で手渡したいな、と思いました」
そう思っていた時に、現在の元はお茶屋さんだった物件が見つかった。
「奄美のネットワークはとにかくすごいんです。島に来て1年とちょっとしか経っていない私にも、いろんな人をつなげて紹介をしてくれて。お店を出す時にも内装やディスプレイ用の棚をどうするかなどたくさんのご協力をいただきました」
もともと、いつかは自分のブランドのお店を持ちたかった、とつぐみさんは言う。
「でも、20代でなんて無理だと思っていました。いつかは、という漠然とした夢でしたね」
ところが、奄美に来たことで夢が叶った、とつぐみさんは言う。
「今、名瀬では20代、30代のUターン、Iターンの方が頑張っていて、その人たちの姿に触発された部分もすごくあります。今、名瀬には若い人たちを応援してくれる雰囲気がある。ほかの町だったら、今こうしてお店を構えることはできなかったと思います」
Atelier lima はあえて、全面に本場奄美大島紬を押し出さない商品づくりをしている。
「あ、これかわいい」、「なんだろう?」、「え、大島紬で出来ているんだ」。
そんな風に、日常に溶け込むように、紬という素材を生かした作品を作れたら、とつぐみさんは言う。
Atelier limaのlimaは、アフリカ東岸部で使われるスワヒリ語で「耕す」、インドネシアのブトゥン島南端の町で使われるチアチア語では「手」を表す。
本場奄美大島紬は1800年以上に及ぶ長い歴史と伝統を持つ。
やさしく、さりげなく、そっと今に寄り添う形で、紬の伝統を耕し、手渡す人がいる。
「あ、これかわいいね」、「大島紬で出来ているんだ」、「大島紬って、いいよね」。
Atelier limaで作品を手に取る人々のそんな会話を夢見て、今日もつぐみさんは伝統と今をつむいで繋ぐ、機を織る。
山口つぐみ
24歳。鹿児島県出身。18歳で上京し、大学で写真学科を専攻。2012年、大学卒業後、奄美大島名瀬に移住し、本場奄美大島紬技術専門学校に入学。2年間、紬の基礎的技術を学び、2015年に大島紬の織りの工程で出る絹糸を利用したアクセサリー、小物類を販売するAtelier lima(アトリエリーマ)を奄美市名瀬末広町でオープン。
※現在(2020.03)は、末広町のお店は閉店しアクセサリーは委託でのみ販売しています。
この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER
三谷晶子
三谷晶子さんが書いた他の記事を見る作家、ILAND identityプロデューサー。著作に『ろくでなし6TEEN』(小学館)、『腹黒い11人の女』(yours-store)。短編小説『こうげ帖』、『海の上に浮かぶ森のような島は』。2013年、奄美諸島加計呂麻島に移住。小説・コラムの執筆活動をしつつ、2015年加計呂麻島をテーマとしたアパレルブランド、ILAND identityを開始。