※現在はKamudyのオーナーは変わって経営しております。(2017.10時点)
奄美大島の南部にそっと寄り添うような形で浮かぶ、加計呂麻(かけろま)島。人口1300人ほどの島民が静かに暮らすこの島で、2015年夏、新潟出身の画家がゲストハウスKamudyをオープンした。
「もともとは、絵画制作のためのアトリエとして借りた元真珠の養殖工場だったんです。アトリエとして使うのもいいけれど、スペースは十分にあるし、誰か何かやればいいのに、な、とは思っていました。けれど、まさか自分がやることになるとは、という感じでしたね」
現在、加計呂麻島の嘉入(かにゅう)集落に住むゲストハウスKamudy代表の青木薫さんはそう語る。
「2012年に東京から単身で移住してきたのですが、集落の方に大変お世話になったんです。ご飯や野菜を差し入れてくれたり、移住して3ヶ月で住んでいた家の屋根が台風で飛んだ時も、何とかして新しい家を探してくれた。その集落に何か恩返しができないか。たとえば集落の人口減少対策として、人を呼び込む仕組みを作れたら役に立つのではないか。そう考えた時に、『ゲストハウスをやればいいんじゃないか』という案が浮かびました」
嘉入集落は、加計呂麻島の瀬相(せそう)港から車で15分ほどの小さな集落。現在の人口は9世帯、14人。そのほとんどが、高齢者の一人暮らしだ。
「このままでは、あと数年で集落の存続が難しくなるのは目に見えている。僕は、本当にこの集落が大好きで変わらないで欲しい、続いて欲しいと思っているんです。そのためには、移住者を受け入れて若者の人口を増やす必要がある。その入り口として機能するゲストハウスを作りたいと思ったんです」
近年で加計呂麻島に移住したケースは100組以上に上ると言われている。しかし、移住者が地域とうまく馴染めず、数年で島を離れることも。
ゲストハウスKamudyは、「地域と移住希望者の出会いと交流」を目的とし、お互いをよく知り、ミスマッチを防ぐ機会を作る場として誕生した。
「クラウドファンディングで160万円以上の支援をいただき、様々な人に助けていただいて無事にオープンしました。始める前は、全くお客さんが来なかったらどうしよう、と思っていたんです。けれど、オープン1か月目にして100人弱、その次の月は160人と、想像を超える反響をいただきました」
始めてのゲストハウス経営のところ、いきなりの大繁盛で戸惑うこともあったそうだ。人口14人の集落に多数の人が訪れることで、騒音などの問題もあった。
しかし、「地域と移住者の交流の場」として機能するゲストハウス、という当初の目標は少しずつ達成され始めている。
「オープンして間もないのに何度も来てくれたお客さんが、集落の農作業を手伝うようになってくれたり、オープン前の内装工事を手伝いに来てくれた人が移住を考え始めてくれたりするようになりました」
オープンして半年が過ぎ、必ずしも「移住者を増やす」=「集落のためになる」というわけではないのかもしれない、と考えることもあった、と青木さんは言う。
「自分がやったことが果たして集落のためによかったのか、正直に言って答えはまだ出ていません。けれど、僕がこの集落に、何とかして恩返しをしたいという気持ちは変わらないものです。課題を見つめつつ、少しでもKamudyを集落のためにプラスの方向で還元できるようになりたいですね」
5~10年後、「あの時、ゲストハウスが出来てよかったね」という風になったらいい、と青木さんは語る。
今はまだ答えの出ない、集落と移住者の未来。
白いキャンバスには、まだ、最初の一筆が置かれたばかりだ。
青木薫
1977年、新潟県生まれ。1999年、多摩美術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。グラフィックデザイナー、特別支援学校教員などの職を経て、2012年より奄美群島の加計呂麻島に移住、肖像画家として活動を始める。同年、第59回全日肖展にて新人賞を受賞。2015年7月、加計呂麻島・嘉入集落に、「地域と移住者の幸せな出会いの場」を目的としたゲストハウス『Kamudy(カムデイ)』をオープン。
イペルイペ油画製作所:https://iperuipe.jp/
Kamudy:https://kamudy.com/
この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER
三谷晶子
三谷晶子さんが書いた他の記事を見る作家、ILAND identityプロデューサー。著作に『ろくでなし6TEEN』(小学館)、『腹黒い11人の女』(yours-store)。短編小説『こうげ帖』、『海の上に浮かぶ森のような島は』。2013年、奄美諸島加計呂麻島に移住。小説・コラムの執筆活動をしつつ、2015年加計呂麻島をテーマとしたアパレルブランド、ILAND identityを開始。