消えそうな奄美の民具「テル」を作り続ける竹細工名人「テルじい」こと永田明正さん

※永田明正さんは他界されておりますが、奄美の伝統民具をお伝えするために内容を残しています。

「父が竹細工を作っていたけれどまったく教えてくれなかったので見よう見まねで覚えた」と屈託のない笑顔で話してくれる。

そんな話をしてくれるのは、奄美では今ほとんどみられなくなった竹製「テル」の製作者、永田明正さん。

竹細工歴約70年。

現在でも畑作業に行きながら、注文があるとテルを作る竹細工名人だ。

畑で作業をする永田明正さん


奄美大島では昔から色々な民具が人々の手によって作られてきた。
その中でも、芋や貝などを入れて、頭に紐をかけて背中で運ぶ竹籠を特に「テル」と言う。

テルを使ってのタンカン収穫


「テルは島の暮らしに必要不可欠なもの。昔は父も作っていたし、畑に行くときみんな使っていた」

畑でテルを担いで農作業している人々の姿は、少ないながらも今でも見かける、「島らしい」光景だ。

しかし、テルを使う人はいるが、肝心の「テルを作れる人」がほとんど居なくなってしまったことは、あまり知られていないかもしれない。

奄美の方言や本場奄美大島紬の職人など、絶滅危惧が叫ばれる奄美の文化はいくつもある。最も身近な暮らしの道具であったはずの「テル」も、そんな絶滅危惧種のひとつなのだ。

永田さんは10代後半から竹細工をはじめた。元々、加計呂麻島の勢里(せり)集落出身で、父が仕事でやっていたのを見よう見まねで始めたとのこと。

永田さんの竹細工は生の青竹を使う。
どうして青竹を使うのですかと聞くと、「柔らかいうちに編み込むので、青竹の方がすごく良く曲がるから」という。

青竹を使うことで、完成した直後、本当に真っ青な、まるで竹が生きているかのようなテルが出来上がる。

奄美の伝統民具テル

テルは大きいもので60kgの芋などが入るサイズから、海に行く時、腰にぶら下げて貝を入れる小さいものまである。

胴の上側には耳がついて、そこにシュロ縄やナイロンで作ったテルノオという紐が通されている。

テルは全体的に丸みを帯びた形をしており、中央より少し上側がくぼんでいる。
これは「テルノオを頭にかけ背中の腰の部分にテルの胴があたるから、女性が畑で使うとき、腰のくびれがテルの側面にぴったりとあうから」とのこと!
実際につかう人の体型の事まで考えられて作られてるから驚きだ。

私が初めて永田さんの作った青いテルを見た時、その形、滑らかさ、綺麗さにテルに抱きつきたくなったほど!
なぜか優しい形をしているなと感じたが、これは女性の背中から腰の形をかたどってるからと納得。

永田さんに出会って5年ほどたち、何度も竹取とテル作りを見せていただいていた。テル作りはいくつかの工程がみられる。

まず山に行き、竹細工に適した竹を採取する。「竹を選ぶのも難しい。悪い竹を選ぶとちゃんとさけない」といい、慎重に竹の表面や太さを見ながら選んで切っていく。

竹を選ぶ永田さん

次に木で作った十字の道具で竹を四つに割り、さらに鉈(なた)で三つから四つに割って四角い細い竹の棒を作る。そしてその四角い竹の棒を、「鉈の刃を手前に受けるようにセ(外側の青い部分)とハラ(内側の白い部分)にしていくんだよ」と言って割いていく。

テルの材料の竹ヒゴ作り

見ていると何気なくさっさとやっていくが、この割った竹ヒゴは長さ3m、幅は約5 mm、 厚さは2 ~3 mmで均等に作られている。

何度も永田さんの作業を見て、一緒に練習させてもらっているが、未だに竹ひごすらまともに作ることができない。何度見ても本当に素晴らしい技術だ。

そして作った竹ひごで、テルの底から編み始め、一気に胴から口の縁まで編む。全体が出来上がると足と耳をひもで編み込み、テルノオを通して「はいっ完成!」とさらっと終える。永田さんは割竹から完成までの工程を最短で4時間ぐらいでやってしまう。

永田さんのテルの特徴は、底を湾曲させて足をしっかりと付ける事である。そうすることで、「水に濡れても底が擦れないからいつまでも壊れずに丈夫」と物を大切に使うための工夫が施されている。

テルはこれまでの島の暮らしにとってなくてはならないものだった。

しかし「山の段畑から土地改良で平坦になり、ねこぐるま(一輪車)が出たことでテルがいらなくなった。ねこぐるまだと重いものも簡単に運べるから」とちょっとさみしそうにおっしゃっる。

永田さんはテルだけではなく、ダンチクの芯の皮を使ったブフォガサなど、いろんな竹を使った民具を作っている。もちろん、自分が畑で使う帽子はブフォガサだ。

ブフォガサをかぶる


オリジナルの竹細工も作る事ができ、最近ではホテルで使うお皿を置く籠、焼酎瓶用の瓶入、竹帽子などを作ってくれた。新しい竹細工を頼むたび、「できるかわからんがなんとかやってみる」と苦笑いしながら、新しい改良を加えて新作を作ってくれる。87歳になってもまだ新しいことに挑戦できる精神は心から尊敬する。

テルを作る永田さん

これまで70年近く竹細工をやってきた永田さん。

これからも元気にテルを作っていってもらえることを心から願いたい。

この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER

自然&文化研究者/飲食店経営 石川県出身。2000年にウミガメの調査で奄美大島に移住。その後も本土や海外、島を行ったり来たりしながら2011年に完全移住。現在、昼は調査や雑多な活動をぷらぷらしながら、夜は「ばんめしやぽっち(https://potti.amamin.jp/)」を営業中。

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