奄美大島の奄美市名瀬で写真スタジオを経営し、素敵な家族写真やウエディング写真などを撮影し活躍しているカメラマン・安田祐樹さん。
バンドのギタリストを努めたりと多方面で活躍する安田さんですが、実は、奄美で大人気のイベントの仕掛人でもあるのです。
それは、「Y-1」というイベント。「Y-1」をはじめたきっかけ、そこに込められた思いなど、お聞きしました。
Y-1とは、「Y(余興)」-「1(わんがいちばん)」
Y-1とは、「Y(余興)1(ワンがいちばん)」の略。
・・・そうでした!
「ワン」の意味もお伝えしなくてはいけません。
「ワン」は奄美の言葉で「俺(自分)」のこと。
つまり、「余興は俺がいちばん!」という意味なのです。
「Y-1グランプリ!」=「奄美の余興で一番おもろい奴は誰だ!」ということ。
「余興」とは、つまりは「宴会芸」のことを指します。奄美では、家族、親戚、友人、知人、先輩後輩など、縦と横でさまざまなつながりがあり、集まる機会も多いです。祝いの場や盛り上がった場面で必ず始まるのが「余興」。あらかじめ主催者から余興の準備をお願いされることもあるし、突如始まる宴会芸もあります。
そして、特徴的なのは、余興を「真剣に」行うこと。適当ではありません。楽しませたい!ワンが一番!という島人の豊富なサービス精神の現れなのでしょうか。奄美の余興芸は単なるわき役ではなく、時に主役に躍り出るぐらいの一生懸命さで行われるものなのです。
こうした余興芸を集約させ、イベント化したのが、「Y-1グランプリ」なのです。
なんとも興味深いイベントだと思いませんか?
今年で、7回目になったこのイベントは、数ある奄美大島のイベントの中でも超人気イベント。
チケットが販売開始から3日で完売するという人気ぶりです。
安田さんに、イベントが始まったきっかけなどお聞きしました。
カメラマンの安田さんが、なぜY-1グランプリを開催しようと思ったのですか?
「僕はカメラマンとして、これまでに何百組の結婚式を撮ってきました。
毎週のように撮っているんだけど、
奄美大島は、結婚式の余興にすごく力を入れる人が多いのが特徴。
多い時には、1つの結婚式に13組の余興があったりするんです。(笑)
その、ひとつひとつの(余興の)舞台を、僕はカメランとしていちばんいい場所でその余興を撮影しながら観ていて、
撮りながらも『この人、面白い!友達にも見せたい!』って思うことがよくあるんです。
当然、結婚式の余興だから、その場にいる人しか見ることができないでしょ。
しかも、その面白い舞台は、結婚式での1回だけ。
それ以降は、どこにいっても見ることができないんです。
それって、もったいないなー!
どうにかできないかなー?と悶々!(笑)
この人たちを見ていると、
“表現力があって面白い人っていいよなぁ”とか、
“そういう面白い人が多い島民性ってめちゃくちゃいいよなぁ”って漠然と感じる。
しかも地域性みたいなのもあって、
“名瀬(奄美市)の面白い人。大和村の面白い人。住用の面白い人”と、地域それぞれにいる面白い人たちの余興を毎週のように見ていたので、
この面白い人たちって、何かカタチにできるはずなのに!と、楽しい人に出逢うたびに
どうにかできないかなー? と悶々でした!(笑)」
安田さんの、この悶々はしばらく続いたそうです。
「どうにかできないかなー」の想いがカタチになり始めたキッカケ
安田さんは、毎週のように余興を見ながら「どうにかできないかなー」と感じていたことを、当時ASIVIの憲吾兄(コミュニティFM「あまみエフエム ディ!ウェイヴ」「 ROAD HOUSE ASIVI」代表 麓 憲吾氏)に相談。
すると、
「いい!楽しそう!やってみよう!」
と肩を押してもらい、
2011年に初めて、余興を披露していちばん面白かった人を決める『第一回 Y-1グランプリ』を開催したのだそうです。
「僕自身も“写真”や“バンド”をやっていたりと、生(ならではの臨場感)を楽しむ!という環境にいたので、余興を生で表現することは、絶対に楽しいなぁとずっと思ってたんです。
そしたらなんと!
120~130枚のチケットが発売開始から1日半で完売!
これにはさすがに驚きました!」
あるようでなかった、島の「笑い」エンターテインメント
「どんなイベントなのか見たこともないのに、あっという間にチケットが完売したのには本当に驚きました。
きっと、テレビで見るお笑いともまた違って、“隣の兄ちゃんが出るね!”とか“自分の集落の面白い人が出るぞ!”とかそういう親近感みたいなものもあるんだと思います。
それと、島に“笑い”のエンターテインメントがなかったからなのかもしれません。」と安田氏。
ありそうでなかった、島の笑いエンターテインメント!
ここに気づいたのが、まさに“奄美の余興カルチャーを間近で見続けてきた”安田さんの視点だったのだと思いました。
Y-1がヒットしたもう1つの理由「島でバカになれる場所」
つづけて安田さんはこうも話してくれました。
「ある程度の年齢になってくると、結婚式に出席する機会(余興を見る機会)が少なくなって、思いっきり笑える場所がなくなってくるでしょ。
すると、大勢で笑う空間もなかなかない。
笑いロス。(笑)
だから“みんなで一緒にバカできると、一体感があっていいよね!”とか
“バカであればあるほど(みんなが笑顔になって)いいよね!”と言える環境が、必要とされていたのかな?って。
“一生懸命バカができる場所” “ちゃんと笑える場所” を提供できたことが良かったのかもしれません。」
島で“バカ”になれる場所の背景には、島ならではのアノ事情。
“ちゃんとバカになれる場所”には、小さい島ならではの、あの事情が背景にあるのかもしれない、と安田さんは話してくれました。
「都会は、街を歩いていても誰も知らない者同志だけど、
島は狭いから、みんな顔がバレているでしょ。すぐに噂になるから変なことも出来ないし。(笑)
意外と、その緊張感や煩わしさの中で生活をしている人たちも多いから、
普段の生活から解放されるくらい、“一生懸命バカができる場所”や“お腹の底から笑える場所”というのが、心地よく思ってもらえているのかも。
そして、“一生懸命バカをする人”と“それを見て爆笑する人”とが繋がり、強烈な共有空間を生み、
日常の緊張が、大爆笑によって緩和していく。
その『緊張と緩和』のバランスの良さが、Y-1を見に来てくれる人たちは、
心地よいと思ってくれているのかもしれません。」
確かに“どこに居ても、何をしていても、すぐバレてしまう離島コミュニティ”にいると、
思いっきりハメを外したくなるときもある!!!・・・と私もつい深く頷いてしまいました。
Q Y-1をやりはじめて変化はありましたか
「はい、ありました。
例えば、Y-1当日も一生懸命バカ(余興)をする出演者たちは、控室でも「頑張って来いよ!」とお互いを励ましあいながら、出演者同志でしかわからない一体感で繋がっている。
運営側の人たちとも同じです。
みんなで『どうやってバカをするか、どうやって笑わせるか。自分が楽しむか。』という共通のものを追求していくグループ感がたまらなく心地が良いんです。
しかも『バカ』とか『笑い』で繋がっているから、壁がなくてすごく楽しい!!(笑)
よくお酒を一緒に飲み交わせば繋がりが強くなるって言うけれど、
『笑い』で繋がっているから、なおさらですよ!(笑)
楽しくて毎回終わるときは『またやりたい!』という欲求が直後に起こってくるほど!」
「もちろん、イベント当日だけではありません。
出演者の人たちは、日常生活ではすごく真面目な人たちで、地域(集落)のために精一杯活動もしていて、集落の若手リーダー的存在になっている人が多く、イベントをキッカケに繋がった彼らが、Y-1以外のところでも繋がり協力しあっていることを聞くと、すごく嬉しい!
今では、出演者は徳之島・沖永良部・ヨロン島と群島全域から来てくれている。奄美群島全体で横のつながりが太くなってきていて、Y-1をはじめて徐々に広がっていく、『人どうし』『地域(集落)どうし』の繋がりが、本当に嬉しい。
そして僕自身も、Y-1で仲間や環境に恵まれ、仕事においても様々な変化がありました。」
Qそんな安田さんから見る奄美大島の魅力とは
奄美の知名度はまだまだ低い。そのことについて、
「よくぞここまで、鎖国みたいな感じで良かったなと思うんです。見つけないでくれて、良かった!って。(笑)今でも、島を見つけてくれなくていいのに。というくらいに感じます。」と安田さん。
「もちろん、これから島も変わっていくのは必然なのだけど、今の奄美大島の良い部分をしっかりと心に残しておかなきゃと。
感情を揺さぶる良いところが島にはあると思うですよ。懐かしい感じというか。そんな良い昔ルールが、今でも残っているはずだから、そこが薄まらないでほしいなぁと。
と言いながらも、『みんな島を見てくれ!』と思うこともあるけれど、すごいスポットライトが当たりすぎると、困惑することもあったり(笑)
あ。島の笑い「Y-1」は見てほしいんですけどね。」
Y-1主催、マイライフスタジオのオーナー安田祐樹氏の今後とは
「マイライフスタジオでのカメラワークも、島のブライダルや家族写真撮影も、Y-1グランプリも、そして、プライベートでやっているバンドもすべてが、別々のことのようで、きっとその方向性は同じ。
そのすべての活動があっての、今の自分だと思うんです。
写真を撮りに来る人って、基本みんな幸せな人。
Y-1で笑っている人たちの笑顔を見るのも最高に幸せ。
こんな幸せな仕事はない。
そして、自分は親父の写真館を引き継いでいるのだけど、親父が撮ったご家族の、お子さんやお孫さんを今度は僕が撮るんです。親子3代とかの家族写真をウチで撮る、これって、本当に素晴らしいことだと思います。
だから、僕の子供たちがスタジオを継ぐかはわからないけど、僕は、この仕事をずっと続けたいと思っています。」
安田さんのお話を伺い「シャッターをきる」ことは誰にでもできることですが、島の暮らしに根付いた文化、環境、島のひとたちの想いを「笑い」や「写真」というカタチに確立させている祐樹さんの写真は、目で見えるものの世界とはまた違う、想いを感じる1枚になるのだろうなぁと感じました。
次回のY-1は、もしかすると初の島外進出になるかもしれないとのこと!今から楽しみです!
この記事を書いたフォトライターPHOTO WRITER
秋葉 深起子
秋葉 深起子さんが書いた他の記事を見るRDA(Relaxing Days Amami)ツアースタイリスト。東京でカラー&イメージコンサルタントとして、企業研修や講演、プロダクトデザインのカラー提案、フォトスタイリング等を行う株式会社アンドカラーを設立。2017年「五感を刺激する大人のための奄美旅」をモットーに、奄美と出会えてよかったと思えるような旅やイベントを企画運営事業を開始。